日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P918
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発表要旨
北海道オホーツク地域における新しいスポーツ合宿地の形成
*渡邊 瑛季
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抄録

Ⅰ 序論
1980年代後半以降,スポーツツーリズムを取り入れ,地域振興を目指す自治体が先進国を中心に増加している.欧米では,スポーツツーリズムを都市経営戦略として位置づけている例があり(工藤 2009),日本でも1990年代以降,地方行政の施策でスポーツ観光が推進されるようになった(花島ほか 2009; 須山 2010).その多くは,スポーツ合宿誘致やスポーツイベントの開催である.
日本のスポーツ合宿地は,長野県,山梨県など首都圏外縁部に1950年代後半以降立地してきた.一方,1980年代後半以降,宮崎県,北海道,沖縄県など大都市圏から離れた地域にもスポーツ合宿地があらわれた.首都圏外縁部の合宿地に関する地理学的研究はあるが,新たな合宿地に関する研究は限られており,合宿の誘致における行政の主導的役割(須山 2010)の指摘にすぎない.
本研究では,研究事例が無い北海道オホーツク地域を対象に,1980年代後半以降発展してきた新しいスポーツ合宿地の形成過程を明らかにする.研究方法は,ゲストが初めて来訪する際に,ゲストとホストを結びつけた主体である媒介機能と,ホストである宿泊施設の合宿への対応および経営への影響の分析である.
Ⅱ オホーツク地域におけるスポーツ合宿受入の端緒
オホーツク地域における夏季のスポーツ合宿は,1985年に明治大学ラグビー部が北見市で合宿を行ったことにはじまる.これは,北見市の誘致活動に加え,北見市出身の同部OBの人脈によるものであった.当時,大学・社会人ラグビー部の多くは長野県菅平高原で夏季合宿を行っていたが,1980年代に高校生チームが増加したことで,1面のグラウンドを複数のチームが同時に使用するなどの状況が生じたため,貸切利用を好む大学・社会人チームの中には合宿地を変更するものが現れた.オホーツク地域には2015年度には284チーム,8,661人(実人数)が訪れた.道外からのゲストの多くは関東地方からの実業団や強豪大学であり,彼らは航空券など高額な合宿費用を負担できる.種目別にはラグビー(3,057人),野球(1,715人),陸上(1,287人)の順に多く,道内と道外チームの人数割合はほぼ半数ずつであった.
Ⅲ 媒介機能からみたスポーツ合宿の受入パターン
オホーツク地域に来訪するゲストである合宿者と,ホストである宿泊施設を結びつける媒介機能は,行政(受入市町),他チームの指導者が挙げられる.行政の窓口は観光ではなく,スポーツ施設を管理している社会教育関係の部署に置かれていることが多い.網走市の場合,2014年度に合宿を行った49チームのうち,網走市で初めて合宿をした年に,市に問い合わせて宿泊施設を手配したゲストは46ある.このうち他チームの指導者に網走市を紹介された例が8含まれる.一方,市を介さず直接宿泊施設を手配したゲストは3にすぎない.この傾向は,他の自治体でも同様である.これは,行政が合宿誘致事業を先駆的に実施していて,ゲストは行政に合宿申込をすれば,宿泊施設とスポーツ施設の手配が同時にできることが背景にある.練習場所であるスポーツ施設は,公共施設であるため使用には行政に申請する必要がある.
Ⅳ 宿泊施設の受入対応および経営への影響
ゲストが宿泊する宿泊施設は,温泉付き大型ホテル,ビジネスホテル,旅館,公営施設など多岐にわたり,受入希望がある宿泊施設に対し,行政がスポーツ施設の利用状況を考慮してゲストを振り分けている.合宿2年目以降は,行政を介さず宿泊施設にゲストが直接予約を行うようになり,合宿地として定着することが多い.オホーツク地域は,流氷,網走監獄,知床などの観光資源がある.しかし,夏季における宿泊者数は1990年代以降,旅行会社による団体旅行が縮小したことで減少しており,この影響を受けた網走市の宿泊施設では,スポーツ合宿の受入が夏季の重要な経営基盤となっている.津別町でも道東では規模が大きく,11月初旬から営業を開始し,スキージャンプ選手などの合宿を受け入れていた津別スキー場が2007年に閉鎖されたことで,宿泊需要が減少した.そのため,夏季のスポーツ合宿は,宿泊施設だけでなく,町内の食材卸・販売店にとっても大口需要となっている.
Ⅴ 結論
オホーツク地域では,スポーツ施設の利用と宿泊施設の手配の決定権を行政が握って主導することでスポーツ合宿を受け入れてきた.スポーツ合宿は,宿泊施設の経営に重要で,それ以前のツーリズムに代わるオルタナティブツーリズムとなっている.

(本研究は,公益財団法人ヤマハ発動機スポーツ振興財団2015年度スポーツチャレンジ研究助成「日本におけるスポーツツーリズムの空間的構造の解明」(研究代表者:渡邊瑛季)による研究助成の成果の一部である.)

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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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