日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 218
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発表要旨
土地所有者からみた都市の形成・変容
戦前期の大阪駅周辺地区
*小原 丈明
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抄録

Ⅰ.はじめに 1.研究の目的  本研究は土地所有の変遷から都市の形成・変容のプロセスを明らかにすることを目的とする。とりわけ、土地所有者の属性や土地所有者間の関係性に焦点を当てて分析・考察を行う。 2.研究対象地区の概要  本研究では、大阪駅周辺地区を分析の対象地域とする。同地区は1874年に駅が開設されて以降、交通の要所となり、業務地区および商業地区として発展してきた。 3.方法・資料  主として第二次世界大戦以前(1885年~1944年)における同地区の形成・変容を分析・考察する。なお、土地所有のデータは土地台帳を、土地所有者の属性については『大阪人名録』や『日本紳士録』、『日本全国諸会社役員録』などの名簿資料を使用した。   Ⅱ.土地所有構造の変容 1.第二次世界大戦前の土地所有構造  1911年時点において、同地区は大半が個人所有の土地所有構造であり、法人所有者は私鉄企業や寺社などに限られていた。したがって、大阪駅の南側と北側はともに個人の土地所有者が多い点は共通するが、南側は地元所在の大土地所有者が多いのに対し、北側は東区や南区に在住の個人所有者が多い点に差異が見られた。  1945年の終戦時点では、1911年時点に比べて運輸や不動産、金融、保険等の業種の法人所有者が増加したが、依然として個人所有者が多い土地所有構造をなしていた。ただし、それら個人の大土地所有者の中には阪神地域の在住者も見られ、両時点の期間内に大阪市内から転居した事例が確認された。また、1911年時点の個人所有者およびその子孫・一族が事業を興し、土地所有権を法人に移す形で法人所有地となった事例も見られた。なお、この動向は戦後にも確認された。 2.第二次世界大戦後の土地所有構造  戦後、同地区においては①終戦直後、②1970年前後の土地ブーム期、③バブル経済期の3時期において土地所有の売買が活発化した。①の時期は財産税の影響により個人間において、②の時期は個人から法人へ、③の時期は個人から法人および法人間での土地の売買が中心であった。②や③の時期を経ることで、同地区の土地所有構造は、1970年代を境に法人中心の土地所有構造へと転換し(小原、2006)、同地区は業務地区および商業地区としての性格を強めていった。   Ⅲ.土地所有者の動向  土地所有者に焦点を当て、戦前期における同地区の形成・変容を分析したところ、特定の個人所有者が多くの区画を購入し、土地の集約化を図る状況が確認された。反対に、特定の個人所有者が短期間に多くの区画を売却する動向も見られた。また、特定の区画においては、短期間のうちに土地の転売が繰り返されるなどの投機的な動向も見られた。   Ⅳ.おわりに  大阪駅周辺地区においては、戦後の同地区の発展の礎となる土地所有構造の基盤の一端が戦前期に確立されたと指摘できる。当日の発表では、土地所有者間の関係性などについても詳述する。   参考文献 小原丈明 2006.土地所有からみた大阪駅周辺地区の形成と変化.人文地理58:504-520.

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