日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 501
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発表要旨
海面上昇に伴いマングローブ林で起こりつつあること
ミクロネシア連邦ポンペイ島からの報告(速報)
*藤本 潔
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抄録
1.はじめに
温暖化に伴う海面上昇は確実に進行しつつある。IPCC(2013)によると1901~2010年の間に全球平均で17~21cm上昇し、今世紀末(2081~2100年)までには1986~2005年平均と比べ26~82cm上昇すると予測されている。発表者が四半世紀以上に渡ってマングローブ調査を行っているミクロネシア連邦ポンペイ島では、長期的には1.8mm/yr (1974~2004年)と全球平均とほぼ同様の速度で上昇しているものの、短期的には16.9mm/yr (2002~2010年)と急激な上昇が確認されている(Australian Bureau of Meteorology 2010)。本発表では、この急激な海面上昇がマングローブ立地に及ぼしつつある影響について、本年9月の最新の調査結果も交えて報告すると共に、20年以上に渡ってモニタリング調査を行っている固定プロットで得られたデータから、立地変動と森林動態および両者の関係について報告する。

 2.研究の経緯
発表者がマングローブ研究に足を踏み入れるに至った動機のひとつは、海面上昇が極めて甚大な影響を及ぼすに違いないという直感からであった。まず、海面上昇に対してマングローブ林が生き残ることができるか否かは、そこでの潜在的な堆積可能速度と海面上昇速度の相対関係で決まるであろうことを理論的に整理した(藤本ほか 1989)。堆積可能速度は河川等によって外部からの土砂供給が期待できる場合は、それによる埋積速度とマングローブ泥炭堆積速度の和で求まるが、土砂流入が見られない立地では、マングローブ泥炭堆積速度のみで決まる。発表者らの一連の研究によって、土砂流入がほとんど見られない立地にはRhizophora属が優占する群落が成立してマングローブ泥炭が堆積していること(Fujimoto et al. 1999など)、マングローブ泥炭堆積可能速度は2mm/yr以上、5mm/yr未満であることが明らかにされた(Miyagi et al. 1995)。従って、マングローブ泥炭堆積域では年5mm以上の速さで進行する海面上昇に対しては、その立地を維持できないことが容易に予測されるのである。ポンペイ島における最近の海面上昇速度はこの値をはるかに超えるものである。ポンペイ島のような大洋島のマングローブ立地はほとんどがマングローブ泥炭から成り立っている。 

3.今起こりつつあること
モニタリング調査を行っている島東部のエスチュアリに面する固定プロットでは、顕著な海岸侵食が進行しつつあり、海岸線では多数の倒木が発生している。林内では海側で顕著な表層侵食が進行する一方で、内陸側のクリーク内およびその周辺では堆積が進行している。今のところ海岸線を除き立ち枯れや倒木の増加現象は見られないが、侵食域ではXylocarpus granatumの、堆積域ではRhizophora apiculataとBruguiera gymnorrhizaの成長速度が低下しつつある。島南側のRhizophora属の優占度が低下したクライマックスに近い林分のうち海側の立地では、Sonneratia albaのケーブル根やB. gymnorrhizaの本来地中に発達するはずの支柱根状の根が地表面上にむき出しになっていたり、X. granatumの板根と地表面の間に隙間が生じるなど、明らかな表層侵食が確認された。マングローブ泥炭堆積域の中でも、Rhizophora属の優占度が低下した林分では、マングローブ泥炭の堆積による地盤高のかさ上げが追い付かず、立ち枯れや倒木の増加など、目に見える形での海面上昇の影響が真っ先に現れる可能性が高い。今後は、そのような立地にモニタリングプロットを設置し、海面上昇の影響を監視していく予定である。
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