抄録
我が国の様な複雑な地形・地質構造を示す変動帯に在る同斜山稜と呼ばれてきた地形の形成に関わる侵蝕様式について検討した。この種の地形は、一般的に地形・地質構造の複雑さが反映して、地形規模はあまり大きくなく、山地自体軟岩・中硬岩からなることが多く、地質構造も硬岩層・軟岩層の差が分かり難く、必ずしも硬岩層が緩斜面を構成している様には見えない。それ故、同斜山稜と呼んでよいか、不確かさは残るが、このことを前提に侵蝕様式につて検証した。
同斜山稜の侵蝕様式については、能登半島(黒田、1964)、犀川丘陵(中村、1956)で、地すべりによる事例が報告されている。ここでは、近年見られた中越地震;寺野・横渡など、中越沖地震;聖が鼻、台湾集集地震;草嶺・九分仁山など、地震に起因した地すべりはいずれも同斜山稜と理解される山地で発生している。これらの事例で明らかな様に、我が国や台湾の単斜構造を有する山地では、順層斜面で主に岩層面に依存した岩層すべりの様式、逆層斜面では主にジョイント面に起因する崩壊、進行した風化層に関係する地すべりの様式になる傾向である。なお、九分仁山の事例では、滑落後上載荷重の減少に伴った下位層の層面に生じたシーテイングの発生による層間の分離と、上方からの応圧力によって既に座屈現象が進行していることが観察されている。