日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S304
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発表要旨
外部人材による地方再生と持続可能な観光
*朝水 宗彦
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抄録

はじめに

近年、中山間地域の復興策としてグリーン・ツーリズムや都市住民との交流事業が注目されている。しかし、せっかく定着した農村体験型の交流事業も高齢化が進んだ地域では労働力と後継者の不足が大きな問題になっている。そこで、外部から新たな知識や技能を持った人材を受け入れることにより、地域の活性化を図ろうとする事例も少なからずみられる。
 

農村部への公的人材支援

都市部から農村部への移住はリタイア層を中心に少なからず見られたが、近年では年齢層の低下も見られる。農村部で活躍する都市出身の若者支援として「緑のふるさと協力隊」(1994年度)や「地域づくりインターン」(1996-97年度試行2000年度から運用)などが組織化された(図司2013,131)。 2003年には林野庁の「緑の雇用」により、新たに2268人が山村にて林業等の就労を開始した(The Forestry Agency 2013, 22)。

2008年には農林水産省の「田舎で働き隊」(現在は地域おこし協力隊に統合)と総務省の「集落支援員」、2009年には総務省の「地域おこし協力隊」が設立された。集落支援員のうち、2015年度の専任支援員は994人であり、増加傾向が続いている。他方、集落支援員のうち、兼任支援員は伸び悩んでいる(総務省n.d.a, web)。都市部からの若者を想定した地域おこし協力隊は2015年には2,625人参加しており、専任集落支援員より増加傾向がより強い(総務省n.d.b, web)。

さらに、大学生が地域おこし協力隊として活躍する場合も見られる。たとえば、富士吉田市と慶應義塾大学は,2007 年に地域連携協定を締結した。2013年に市役所内に域学連携事業と地域おこし協力隊事業を取り扱う慶応義塾連携まちづくり室が設置された(高田他2015,123)


地域おこし協力隊の特徴

上記の活動内容を詳しく考察するために、本研究では地域おこし協力隊の求人サイトを活用した。JOIN(移住・交流推進機構)は地域おこし協力隊の求人サイトを運営しており、分野別、地域別の検索や、キーワード検索も可能である(JOIN「地域おこし協力隊」http://www.iju-join.jp/chiikiokoshi/)。JOINの求人サイトによると、2016年7月7日現在、観光分野の地域おこし協力隊は145件(分野の重複を含む)募集中であった(全体は239件)。

上記の145件の検索結果を地域別に見ると、北海道が23件で圧倒的に多く、長野県の11件がそれに続く。農村部への公的な人材支援策は元々少子高齢化に伴う地方における農林水産業の人材不足を補うために創められたが、地域おこし協力隊に関して言えば、一次産業の支援策よりは、観光産業などの地方で不足する人材の確保のために機能していると考えられる。
 

参考文献

Forest Agency 2013. Annual Report on Forest and Forestry in Japan 2012, Tokyo: Forest Agency.

藤本 穣彦、田中 恭子、平石 純一2010. 中山間地域の担い手不在問題 :ボランティア・大学生の可能性. 総合政策論叢 19:67– 81.

総務省n.d.a.集落支援員http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/bunken_kaikaku/02gyosei08_03000070.html, 2016年7月26日閲覧.

総務省n.d.b.地域おこし協力隊http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/02gyosei08_03000066.html, 2016年7月26日閲覧.

髙田晋史,清野未恵子,中塚雅也2015. 大学と連携した地域サポート人材の管理体制の構築と課題. 農林業問題研究51(2):122–127.

図司直也2013. 農山村地域に向かう若者移住の広がりと持続性に関する一考察. 現代福祉研究13:127-145.
 

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