日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 307
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発表要旨
長野県出身大卒者の居住地分布の変化
1970年代の人口移動転換に着目して
*竹下 和希
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抄録


1.はじめに

大学進学・就職に伴う人口移動は,社会経済的な状況と密接に関連している。そして若年期に生じた人口移動は、将来の人口分布に対し影響を及ぼすことが予想される。大学進学に重点を置いたライフコース分析は,その後の移動を議論する上で重要であり,より詳細な分析が求められる。本研究は,長野県地方出身の大卒者を対象に,高度経済成長期に就職した世代と,その後の安定成長期に就職した世代の移動を差別化することにより,ライフコースにおける居住地選択およびその規定要因の差異を解明することを目的とする。

2.方法

長野県松本市のある公立高校で発行された同窓会名簿を用いた。名簿には,発行当時の住所が記載されている。発行年代の異なる名簿を分析することで,個人の移動経歴を長期的に追跡することができる。得られた情報から,出身大学が位置する地域と就職後の業種が,居住地分布に与える影響を考察した。ついで名簿掲載者のうち,Uターン者と県外への移動経験がない者を対象に,電話による聞き取り調査を行った。大学卒業当時の時代背景,就職時における居住地選択とその理由,Uターンまたは県内に定住した要因の3点について質問した。

3.結果

名簿を用いて高校卒業から6年後(24歳)までの移動を分析したところ,1964年高校卒以前の世代は,大学卒業後のUターンが2割程度であったが,1970年高校卒以降の世代では40~50%に達した。この変化は1970年代前半の人口移動転換と時期が一致しており,人口移動の潮流が大都市圏から地方へ転換した現象によるものである。本研究ではその前後から1世代ずつ選び,1958年高校卒者と,1975年高校卒者に対し詳細な調査を行った。その結果は以下のとおりである。

出身大学が立地する地域は,卒業後の居住割合も高くなる傾向があり,大学進学に伴う居住地移動がライフコースに影響を与えていた。業種別の居住地移動を検討した結果,1958年卒から1975年卒にかけて,地方公務員,製造業,医療従事者で長野県内居住率が大きく上昇した。

就職時の社会的背景について,1958年卒は,大都市圏―非大都市圏間における雇用機会の深刻な格差を認識していた。その結果大都市圏への移動が卓越し,Uターン率が低下した。一方1975年卒は,長野県内の雇用機会の増大によって,自由な居住地選択が可能ととらえ,Uターン率が上昇した。さらに,就職時の社会状況の違いは,将来のUターン決断要因にも影響を与えた。地元に帰りたいという自発的理由からUターンを決断した人は,1958年卒で定年後に多い一方,1975年卒は20~30代に多く,将来のライフコースに影響を及ぼしたことを示唆している。

4.結論

大学進学を起点とした将来の居住地移動は、出身大学地域・業種・就職時の社会的背景が複雑に関わり、規定要因として働いていたと結論付けられる。

本研究では,大都市圏に進学した若者のUターンは僅かであることが解明された。また,大学卒業時の居住地選択には,大卒者に対する雇用機会が大きく影響していた。地方の企業や行政がどのように若年層を呼び込み,地元定住を促進するかが,今後の課題といえる。

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