日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P1015
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発表要旨
ナミビア北中部における季節性小湿地群の土壌水文環境による分類
*藤岡 悠一郎水落 裕樹渡邊 芳倫飯嶋 盛雄
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抄録
1. はじめに
半乾燥地域に位置するナミビア北中部では、農牧民オバンボがトウジンビエを主作物とする農業を営んでいる。同地域では、降水量の経年変動が大きく、干ばつや洪水という極端な気象災害の常襲地域である。そのため、現地の農業生産も年変動が大きく、住民の食料安全保障が不安定である。発表者らは、本地域において、限りある水資源を持続的に利用し、洪水と干ばつという両極端な気象災害に対応する新しい農法(洪水-干ばつ対応農法)の開発を進めている。本地域は、クベライ水系中流部の網状流帯に位置し、多数の季節河川が分布していることが知られているが、同時に数多くの季節性小湿地が点在する。これらの季節性小湿地は潜在的に農業への利用が可能であると考えられるが、湛水期間や土壌環境に多様性があると推測される。本研究では、季節性小湿地の農業利用を視野に入れ、小湿地群を土壌水文環境によって分類することを目的とする。

2. 方法
2014年12月~2015年5月にナミビア北中部に位置するクベライ水系の3地域において現地調査を実施した。衛星画像において3地域に分布する小湿地を確認し、面積などを指標に典型的なものを各地域で22湿地抽出し、計66湿地と比較のための畑地(計15点)を選定した。各小湿地の最深部において土壌を採集し、pH(H2O), 電気伝導度,全炭素含量,全窒素含量,C/N比,交換性陽イオン(Na, Ca, Mg, K),可給態リン酸含量,粒径組成を分析し、土壌の塩類とソーダ質の評価としてSARを算出した。また、2007-11年にかけて撮影された14時期の衛星画像(PALSAR)から後方散乱係数を指標に対象となる小湿地の水域を抽出し、湛水確率(PWP),平均湛水面積を算出した。これらのデータを基に主成分分析およびクラスター分析を実施した。

3. 結果と考察
(1) 3地域における衛星画像から、いずれの地域にも数多くの小湿地が点在していることが確認された。小湿地と畑地における土壌成分を比較すると、小湿地では畑地に比べ、全炭素含量、全窒素含量、粘土含量、交換性陽イオンの割合が高く、農業利用のポテンシャルが確認された。同時に、ナトリウム含量やSARが畑地に比べて高く、全体的に塩類集積の傾向も認められた。
(2)主成分分析の結果、主成分1~3により全体の累積寄与率約70%が占められた。主成分1は粘土含量とMg, K, Ca、全窒素含量と高い正の相関を示し、主成分2はNaとSARと高い正の相関が認められた。主成分3は全炭素含量やC/N比と高い正の相関が認められ、PWPとやや強い相関が認められた。
(3)主成分1~3の主成分得点を計算し、その結果を用いて階層クラスター分析を行った。その結果、相対的な結合距離10付近において類型化を行うのが妥当であると判断し、小湿地群を4つのクラスター(A~D)に分類した。各クラスターの特徴は次の通りである。A:粘土含量が多く、Mg, K, Caの割合が高いが、Naの集積は低い。B:砂質で粘土量は少なく、交換性陽イオンが全体的に少ない。C:ナトリウム集積があり、炭素含量が少ない。D:砂質であるが炭素含量が高く、粘土や交換性塩基が少ない。
湿地の農業利用を検討する際は、クラスターCの湿地を避け、AやDを選定するのが望ましいといえる。また、Bについては、家畜由来有機物の投入などにより養分を加えることで、生産性向上が見込まれる。

付記 本研究は、地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)「半乾燥地の水環境保全を目指した洪水-干ばつ対応農法の提案」(代表 飯嶋盛雄)の一環として行なわれている。
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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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