抄録
フィリピン・ルソン島の火山の中で圧倒的多数を占める潜在的活火山は,地形的に新しい火山である事が推定されているに留まっており,具体的な噴火史は整理されていない。このため,フィリピン周辺のテフロクロノロジーを構築する上で,一つでも多くの試料とその年代測定値を提示する事が重要である。そこで本研究では,パイタン湖から採取したボーリング試料中のテフラ(深度2.88~3.10m:NLPa-2,深度3.14~3.16m:NLPa-1)の岩石的特徴を明らかにすることを目的として,鉱物分析,粒度分析,屈折率測定,主成分化学組成分析を行った結果を報告する。 試料採取地点であるパイタン湖は,中部ルソン帯のEVC(Eastern Volcanic Chain)北東端に位置する東西約0.8㎞,南北約1.2㎞の火口湖である。また,この湖は,周囲の山々からの流入河川が無く,集水域が火口湖周縁に限定される閉鎖的な湖となっており,地質記載をよく保存していると考えられる。 テフラ層のAMS14C年代は,NLPa-2が,直下の土壌バルク試料で2,345-2,47414C cal BPであった(田代ほか,2015)。両試料のガラスと斑晶鉱物の比は8対2であり,重鉱物は,輝石>角閃石>斜長石が検鏡され,軽鉱物は石英が検鏡された。また,火山ガラスの形態は,バブルウォ-ル(Bw)型と繊維(Fb)型が,6対4の割合で検出された。両テフラは,主成分化学組成から,珪長質と考えられ,非常に細粒かつ淘汰がよく,無層理であり,遠隔地から供給された降下火山灰であると考えられる。これらの分析結果より,両テフラは,堆積状況などから広域に分布する可能性が高く,今後指標テフラとして発見されることが期待される。