日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 415
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発表要旨
群馬県みなかみ町におけるエコツーリズムの展開とその特徴
*中岡 裕章
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抄録

1. はじめに
日本の観光地では,観光地開発や集中する観光客による地域環境への悪影響が問題視されてきた.一方,宿泊客の低迷による観光地の衰退もあり,ソフト面の取り組みによる地域振興策が模索されている.
こうした中で,既存の地域資源を活用し,環境保全・観光振興・地域振興を目指すエコツーリズムが注目されている.しかし,地域社会ごとにエコツーリズムを推進する目的は異なるため,地域側がどのような経緯でエコツーリズムを推進し,どのように活動が展開するのかを把握することが課題となっている.
本報告では,群馬県みなかみ町を事例に,エコツーリズム推進の背景や経緯,活動の展開を把握し,その特徴を考察する.みなかみ町は,2012年にエコツーリズム推進法に基づく全体構想が認定されており,観光地域におけるエコツーリズム推進地としては代表的な地域である.
調査は,エコツーリズム推進の背景や経緯を把握するために,みなかみ町観光商工課自然観光グループおよび谷川岳エコツーリズム推進協議会に聞き取り調査を実施した.また,活動の内容を把握するために,エコツアー実施者(団体)に対して調査票を用いた面接調査を実施した.期間は,2015~2016年にかけて実施した.
2.エコツーリズムの推進
みなかみ町は国内有数の観光地域であり,谷川岳での登山やトレッキングをはじめ,温泉観光やウィンタースポーツも盛んである.このため,みなかみ町では観光業が重要な産業となっている.しかし,近年では観光客数が減少を続け,特に宿泊観光客数の落ち込みは著しい現状がある.また,スキーやスノーボード客も大幅に減少する一方,登山やトレッキングへの関心の高まりから,谷川岳への登山客や観光客の集中による自然環境への悪影響が問題視されてきた.こうした中で,地域環境を保全し,観光業を立て直すことを目的としてエコツーリズムを推進してきた.また,エコツアーによって観光客一人あたりの滞在時間を増やし,宿泊客数の増大を図る狙いもある.
 エコツーリズムの推進範囲は,観光客や登山者などの利用が集中する上信越高原国立公園をはじめ,自然環境保全地域に指定されている朝日岳と白毛門周辺地域である.このため,みなかみ町のエコツアーは,この推進範囲内で展開している.
3.エコツアーの展開
エコツーリズムの推進範囲が谷川岳周辺地域であることから,エコツアーの内容はトレッキングや自然散策を目的としたものが大半であるが,植物や生物の鑑賞,歴史・文化などの解説を目的としたものも行われている.エコツアー料金は,数千~1万円程度であり,みなかみ町に宿泊することで割引を受けられるものもある.
エコツアー実施者は30名程度であり,山岳ガイド協会に所属する山岳ガイドや,水上温泉旅館共同組合に加盟する者,谷川岳を中心にガイドとして活動してきた者が多いが,みなかみ町が開催するインタープリテーション講習を受講した地元住民も存在する.このため,みなかみ町のエコツアー実施者には高い専門知識を有する者が多い.しかし,エコツアー実施者間でも知識量に差があることから,インタープリター憲章を作成し,実施者の登録制も検討している.
4. まとめ
みなかみ町は,環境保全および観光業の立て直しを目的としてエコツーリズムを推進してきた.この結果,エコツアーという観光形態を提供することによって地域社会への理解を深めるとともに,宿泊客を増加させて消費額を向上させるための活動として展開した.このように,みなかみ町では既存の地域資源や人材を活用する形態のソフトな開発を目指し,その手段としてエコツーリズムを活用している.

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