日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S201
会議情報

発表要旨
国際枠組から持続可能な防災教育支援を考える
*桜井 愛子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
本発表では、過去20年間の国際防災戦略における防災教育の位置づけを概観し、事例を踏まえて今後の防災教育をめぐる国際協力のあり方について検討する。
横浜~兵庫:啓発から災害知識のカリキュラムへの統合へ
  国際社会では、1994年の「安全な世界に向けた横浜宣言」以降、2005年の「兵庫行動枠組(HFA)」、2015年の「仙台防災枠組(SFDRR)」と10年ごとに国際防災戦略を見直し、その中で防災における教育の重要性を繰り返し強調している。HFAでは、優先行動3を「全てのレベル(国家や地域および国際機関)で防災文化を構築するため、知識、技術、教育を活用する」とし、具体策の一つに防災知識を学校カリキュラムへ統合していくとされた。
仙台防災枠組:リスク軽減に向けた包括的な学校安全
SFDRRでの教育の扱いは、これまでの横浜宣言やHFAとは大きく異なる。まず、災害リスク軽減実現のための施策として教育が構造物・技術、法制度、経済、健康、文化等とともに統合され位置づけられたことである。第2に、今後15年間のグローバル目標に死亡者数や被災者数の大幅削減とともに、教育施設を含む重要インフラへの損害、基本サービスの途絶を大幅削減することが盛り込まれた。第3に上記を踏まえて、独立した優先行動としてではなく、SFDRR全体を通じて、災害リスク軽減のために教育の果たす役割が網羅された。優先行動1では災害リスク理解に関して、教育・啓発の役割を学校教育に限定せず、政策決定者からあらゆるマルチステークホルダーの関与と協働を強調し、技術の活用を強調している。優先行動3ではレジリエンス向上の為の投資の促進に関して、学校施設の安全確保(構造、建築素材、設計、耐震化等)の促進、優先行動4では災害後の教育サービスの継続を実現するための教育施設のレジリエンス強化、復興期の教育の重要性が確認された。背景には、国連等が推進する安全な学習施設、防災管理、防災教育の3つの柱からなる「包括的学校安全」の概念が反映されている。
アチェにおける防災教育の現状とインドネシアの教育課題
2004年の大津波の被災地インドネシア国アチェ州では、現在、シャークアラ大学の津波災害軽減研究センターや赤十字が避難訓練や応急救護等の学校防災プログラムを実施している。その一方で、2004年の大津波後、国際復興支援として30以上の機関により学校やコミュニティでの防災教育案件が実施されたがこれらは支援期間とともに終了した。防災知識のカリキュラム統合に向けた教育研修、指導・学習教材等の開発も行われたが、現地自治体による予算確保が実現せず継続されていない。また、指導・学習教材には、津波に関する単元は含まれていない。教材は研修に参加した教員に配布されたが、研修を受けた教員の異動等により一部学校にしか残されていない。国際学力調査の一つTIMSS(国際数学・理科教育動向調査)の2011年インドネシアの中学2年生の理科は、406点(IEA、2011)と参加42カ国中40位である。同国では近年、「万人のための教育」という国際教育目標の推進により就学率は急速に向上したが、児童生徒の学力向上とともに教員の質の向上等が重要課題である。また、バンダ・アチェ市内の公立小学校の半数以上が2004年大津波の浸水域に現在も立地しているが、これら学校で津波避難訓練は定期的に行われていない、等の実情が明らかになっている。大津波から10年以上を経て、学校教育の現場から大津波の経験や教訓が失われつつあることが懸念される。  防災教育をめぐる国際協力の在り方を考える鍵  地域によって異なる宗教、文化、社会、経済環境等の下、既に多くの教育課題が山積する中でも、災害リスク削減が優先課題となるならば、誰が何をどのようにすれは自分たちで続けられる防災教育が可能となるのだろうか?日本では、教科書にある災害や防災に関する知識を子どもたちの暮らす地域の自然社会環境の中で体験学習する実践的な防災教育の必要性が重要視されている。インドネシアでも、「教育開発のプライオリティは当事者(住民・学校)が最も知っている」との考えに基づき、住民/学校主体の教育改善が日本により支援されている。日本の経験や教訓を活用して地域の状況にカスタマイズし、持続可能な内容を取捨選択した「エッセンシャル・ミニマム」を抽出した防災教育を進めることが求められる。そのためには、防災と地域研究や教育開発の研究者、現地大学、現地NGO等との協働、学校とコミュニティとの協働、防災関係のステークホルダーの参加協力、等が必要不可欠となってくる。
著者関連情報
© 2016 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top