日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S405
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発表要旨
地球温暖化と都市化~気候モデルシミュレーションからの観点~
*鈴木パーカー 明日香日下 博幸
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抄録

1.      はじめに
地球温暖化と都市化による都市の温熱環境の悪化が大きな社会問題となっている.都市の温熱環境問題に対する地理学的アプローチを考える上で,地球温暖化予測の手法と,それにおける都市の扱いを把握しておくことは重要であると考える.したがって本発表では, (1)地球温暖化予測の中心を担う気候モデルのレビュー,(2)著者らによる都市構造変化を考慮した都市温熱環境の将来予測 の2本を柱とし,都市温熱環境問題における気候モデルシミュレーションと地理学的アプローチの今後の展望について述べる.
2.      気候モデルと都市気候シミュレーション
気候モデルは大気の動きを記述する物理方程式系から構成される.年単位の平均的な気候のシミュレーションを対象としたモデルと,日々の天候予測などに用いられるモデルに大分される. IPCCによる地球温暖化研究の中心を担っている前者のモデルは,ヒートアイランド現象などの都市特有の気候を再現するのには向いていない.しかし後者のモデルでは都市の効果をある程度表現できるようになってきている.近年では両者を組み合わせることにより,地球温暖化と都市化双方による影響評価が可能となってきた.この手法を「力学的ダウンスケール」と呼ぶ.下記に, 「力学的ダウンスケール」を用い,都市構造変化を考慮した温暖化予測研究例を紹介する.
3.      都市を取り入れた温暖化予測
Kusaka et al. (2016) では,東京首都圏を対象に将来都市シナリオを考慮した温暖化予測を行った.将来都市シナリオは山形ら(2011)による社会経済モデルに基づく.将来気候の2050年代は,現在に比べて8月の平均気温が約2℃上昇すると予測された.首都圏の人口が都心に集中すると仮定する集約都市シナリオを用いた場合,都心の昇温が大きくなる一方郊外での昇温は抑えられた.逆に首都圏の人口が郊外に分散すると仮定する分散都市シナリオを用いた場合は,郊外の昇温が広い範囲で大きくなることが示された(第1図).しかしながら都市シナリオによる効果は地球温暖化による効果より1オーダー小さく,首都圏スケールの都市シナリオ効果は温暖化緩和策としては限定的であることが示唆された.この主な理由の一つとして,東京首都圏がすでに成熟した都市であることが挙げられる.すなわち,東京首都圏には大きな都市構造変化の余地がないということである.しかし,世界の他の都市を対象とした研究では,顕著な都市化が地球温暖化と同等かそれ以上の昇温をもたらす可能性を示しているものもあるため,都市効果は軽視すべきではない. 
4.      今後の展望と課題
温暖化予測研究と都市地理学の両コミュニティーの間で,活発な交流・議論が今後ますます重要になっていく思われる.第一に,上記研究で用いられたような 社会経済モデルに基づく都市シナリオに加え,今後は人々の生活様式や人口構造など,地理学的な知見に基づく都市シナリオにも期待を寄せたい .また,そのような都市シナリオに基づく将来予測が得られたならば,予測の意味するところを地理学的な視点から考察することも必要であろう.第二に,都市温熱環境評価においては,今後見込まれる都市への人口集中と高齢化を特に考慮することが肝要 である.この点において,地理学的な知見は不可欠であると考える.

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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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