日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P907
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発表要旨
3次元情報技術を用いた景観復原における地理的要素の可視化とアウトリーチ
*早川 裕弌安芸 早穂子辻 誠一郎
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抄録
1.はじめに
大規模な発掘調査が継続されている考古遺跡においては,膨大な遺物・遺構の発掘成果に加え,さまざまな科学的分析手法に基づく古環境復元も行われている。これらの成果に基づき,遺跡の繁栄した時代における景観の復原は,とくに非専門家に向けては,イラストや絵画,縮尺模型などといったかたちで表現がされてきた。一方,科学的分析に関しては,サンプリング地点の離散性といった空間的な制約もあり,時間的連続性だけでなく空間的連続性の点でも,その補間や領域判定を行うことは挑戦的な課題である。また,そうした分析結果にとどまらず,遺跡として残された集落の活動当時における景観は,ヒト,生態系,気候,地形などさまざまな要素から構成されるものであり,また多様な考古学的な解釈も伴うため,単純明快な景観復原は一般に困難を伴う。
そこで,景観復原の複雑性を前提とし,閲覧者に解釈や想像の余地を残しつつ,既知の情報を多様な形態で提供することが試みられている。このような背景のなか,本研究では,青森県三内丸山遺跡を例に,3次元の地理空間情報をベースとした景観復原イメージの提供方法について検討する。これは,既存の考古学的成果や科学分析に基づく確度の高い事実関係と,そこから発展される複雑な景観復原をめざす表現手段の一つでもあり,空間軸に準拠した,地理学的視点からの学際的な研究成果のアウトリーチまたはサイエンスエデュケーションの手段としても位置付けられる。

2.方法
まず,基盤となる3次元地理空間情報として,小型UAV(無人航空機)を用いた空撮による画像・映像の取得と,それらを用いた高精細地表形状計測を行う。計測に関しては,数百枚の低空空撮画像と,後処理搬送波補正が可能なGNSS受信機により精密計測した参照点座標とから,SfM多視点ステレオ写真測量により3D点群,3D-TINモデルや,地理座標系に投影したDEM,およびオルソ補正画像を生成し,GISや3Dモデリングソフトウェアで統合管理する。
次に,現況の細密な空間情報から,発掘の過程で明らかになった地下構造を加味しつつ,空間解析により人工的な地形改変以前の地形復元を行う。
さらに,オンライン3D表示システム(Sketchfab)とHTMLコーディングを活用し,ウェブブラウザで表示可能な3D景観モデルを構築する。ここでは,ヒトの生活環境にも着目した復原イラストレーションと連携し,景観イメージの3次元的な表現を試行する。また,この3Dモデルは,タブレット端末での展示にも活用する。これは,絵画など静的な展示に加え,動的なコンテンツを提供するものとなる。

3.結果と考察
UAVによる空撮動画は現実の俯瞰的感覚を視聴者にもたらしつつ,その視点から周辺域を含む復原景観図へと推移し,視聴者の想像を促すものとなった。また,構築された3D景観モデルは,2次元的に固定された地図と比べ,衣食住だけでなく多様に存在する集落と環境との関わり合いを表現するにあたり,より直感的なイメージ解釈の手助けとなりうることがわかった。すなわち,本手法は,非専門家に向けて,情緒的,内面的表現性を担保しつつ,直接的に感性にはたらきかける一つの手段となりうる。
一方,展示の問題点として,タブレット端末での3D表示は処理能力の不足などで動作が不安定になることがある。また使用したシステムがオンラインサービスであるため,安定性は無線接続環境にも依存する。今後,タブレット端末のグラフィック性能の向上や,ローカルなアプリケーションとして表示できるものを開発することが期待される。一方,このような不具合の当面の対応策として,安定した3D表示を動画に編集してループ表示することも挙げられる。
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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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