抄録
1.研究背景と目的 東京都心周辺地域に位置する東京都台東区上野地域は,北関東,東北,信越,北陸地方へのターミナル駅である上野駅を中心に東京を代表する主要な商業集積地として発展している.また,上野地域は,世界文化遺産に登録された美術館や博物館,動物園などの文化施設とともに,アメヤ横丁に代表されるような東京の下町の風情を感じられる商業集積地が隣接しており,それらの文化施設との近接が上野地域における商業集積地の魅力の一つとなっている。 本研究では,東京都台東区の上野地域を研究対象地域として,東京都心周辺地域における商業集積地の変化とその要因を明らかにすることを研究の目的とする.この際には,社会環境,経済環境の変化についても考慮し,上野地域における商業集積地の変化の諸要因について検討する.
2.業種構成の変化にみる上野地域の商業集積地の変容 本研究では,上野地域における商業集積地の特徴をとらえるために,商店街の業種構成の変化と土地利用の関連をみた.商店街の業種構成については,1956年に発足した上野地域を代表する商店が加盟している上野のれん会の加盟店の業種構成の変化を分析した.上野のれん会は1956年の発足当時から毎月継続してタウン誌「うえの」を発行しており,上野地域の歴史と商業集積地の変化をとらえるのに適している.本研究は,タウン誌「うえの」の記載内容を分析するとともに,上野地域の店舗に対して聞き取り調査を実施した. 図1は上野のれん会の資料をもとに,上野地域における商業集積地の業種構成の推移を示したものである.これによれば,1959年から2016年にかけて加盟店の数は漸減傾向にあるが,業種としては飲食店の数が最も多く,衣料品,靴,鞄を扱うファッション関連の業種がそれに続く.これは,太田ほか(2016)が示した上野地域の店舗構成の現状と同様の傾向であり,上野地域が1950年代より飲食店を中心に発展してきたことがわかる.また,1970年代以降からファッション関連の店舗が減少傾向にあるが,これは洋装生地などの服飾素材を扱う店舗の減少によるものである.その一方で,靴や鞄を扱う店舗は残存しており,これらの革製品を扱う店舗の多さが上野地域の商業集積地の特徴となっている. また,2000年を前後に上野のれん会に加盟する老舗の飲食店がテナントビルに建て替えることで,不動産業に転換する事例が相次いでみられるようになった.このような上野地域における商業集積地のテナントビル化の要因は,地価の下落と店舗の後継者問題である.以上のような商業集積地の変化は,土地利用の高度化を促進するとともに,上野地域の景観に変化を与えるものとなっていた.