飛騨山地最北部の朝日岳北面には,形成期不明の圏谷が存在する。圏谷底には小湖沼(朝日池)が分布する。本発表では,この圏谷を「朝日池圏谷」と仮称する。朝日池南岸には泥炭や河成礫から成る小リッジが存在する。先行研究は,これらの地層が完新世初頭のもので,顕著な変形を受けていることを報じた。そして,この変形は完新世の氷河前進で生じ,リッジはプッシュ・モレーンと解釈された。この知見は代表的な地形学の教科書でも引用されている。 筆者らの再検討によれば,地層の変形は完新世後半に岩盤の重力変形や地すべりで生じたと想定することも可能である。筆者らの成果の一部はすでに報じたが,本発表では新知見を加えて議論をさらに進める。 朝日岳周辺における地形発達は,氷河地形学,周氷河地形学及び地すべり地形学の観点から広く検討する必要がある。