日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P073
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要旨
地理学のアウトリーチを意識した授業とその成果発信
*長谷川 直子横山 俊一
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キーワード: 授業実践
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抄録

1. はじめに 演者らはガイドマップをベースに雑誌の増刊号を作ることになったのだが、その道は試行錯誤と紆余曲折の連続であった。その経過は今後アウトリーチを行う人たちにとってなんらかの参考情報になる可能性があると考え、今回の報告を行う。 2. 発刊決定までの経緯 雑誌のベースとなった授業自体は2015年6月第1週に終了した。学生の作品が力作であったため、横山がこれらを出版できないかと考えた。地理学の一般普及を目指すならば旅行ガイドブックを数多く出版するJTBパブリッシングや地理理学関係のペーパーバックを多数出している青春出版社などへの持ち込みも検討したが、まずは地理学界の中での一般普及の認識向上への布石を打つことを考えて古今書院での出版を考えた。6月下旬に月刊「地理」編集長に学生の作品を提示し意見を聞いたが、学生の作品のターゲットやデザインがバラバラであり難しいとのことで終了した。 7月中旬:お茶の水女子大学の学内予算でリーダーシップに関わる教育・研究プロジェクトの募集があり、広義のリーダーシップとして異文化理解やアクティブラーニングも含まれていた。学生作品をメインとして一般向けの書籍として販売し、一般の人の意見を収集することでアウトリーチの効果的な検証につなげるための教育プロジェクトとして申請。 8月初め:採択通知がきたものの、複数いる大学会計担当の中から「アマゾンでの書籍の販売のどこがリーダーシップなのか。予算は認められない」と通告。紆余曲折の末、最終的には予算の大半を出版費用として使用できることになった(基本的使用ルールは科研費の出版助成と同じ)。 8月下旬:再度月刊「地理」編集長に相談。教育成果の出版物という扱いであれば出版を検討するという反応。編集長が地理学のアウトリーチに対する理解があったことも大きかったと考える。その後、編集長から、より多くの人に読んでもらえるよう「地理」増刊号として出版してはどうかとの提案をうける。出版時期は予算を使用できる年度内であることと、春の日本地理学会大会での販売を考えて、2月末発刊と決まった(9月上旬)。 3. 出版決定後、内容の構成について 古今書院からは、「地理」増刊号としては、学生のガイドマップだけでは読み応えがないこと、ページ数も足りないことから、専門家に今回の対象地域である表参道・原宿エリアや町歩きマップに関するわかりやすいコラムを書いてもらう提案を受けた。そこでアウトリーチに理解のある研究者とお茶の水女子大学にかかわりのある方々を中心にコラムの執筆を依頼した(10月初旬)。  10月初め:学生への出版説明会。学生の遊び感覚を取り入れたかったので、出版形態や構成上の最低限の取り決めのみを演者らが示し、それ以外の中身については基本的に学生が全て作る形にした。雑誌タイトル・レイアウト・構成などを決める編集委員会を有志で結成するため、希望者を募った。関係学生18名(内2名は海外留学中)のうち8名が名乗り出た。  入稿締め切りの12月15日まで、編集委員会は週1回開催した。タイトルは当初、お茶の水女子大学(お茶大)を前面に打ち出した形、表紙写真は大学講堂前の階段で学生が並んだ写真を考え撮影も実施したが、出版社から大学の宣伝のようなものは避けたい、できれば写真は現地写真でとの提案を受けて練り直し、最終的に落ち着いたのが11月末である。  また、10月の学生向け説明会で、ガイドマップを出版する上での最低限の修正(作品の授業当時のテイストをそのまま生かしたいため)として誤字脱字の修正と出典の明記を指示した。それ以外にも学生のコメントを掲載したページ(作品提出学生全員)や地理女子コラム(編集委員会有志)などを作成した。  12月上旬:出版社から定価、製作部数等についての連絡をもらった。出版契約にあたっては大学の財務、知財、広報と出版社、演者らの6者で12月中旬に会合を持ち契約内容について決定し、その後、1月上旬に契約書を交わした。 4.まとめ 今回のような形で成果を公刊できた1番の理由として学生の熱心な授業への取り組みがあった。第2にこれまでとは異なる方法で地理学の一般普及を目指している演者側と編集者側の思惑の一致があった。もっとも大きかったのが大学からの教育プロジェクト資金の獲得がある。これまでは研究者の書籍出版といえば研究成果の公表のためという側面が大きく、それを一般読者向けとした新書へのダウンサイジングが中心であった。しかし地理学のすそ野を広げるためには専門的な研究内容の新書などよりもさらに手に取りやすい内容や形態での研究成果情報の発信が必要ではないかと考える。 

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