日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 509
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要旨
地理学を生かしたランドスケイプデザイン #5
岐阜県飛驒古川における盆地霧発生を環境指標とした農村環境デザイン政策を例として
*廣瀬 俊介野村 久徳
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抄録

地理学を生かしたランドスケイプデザインの応用事例として、旧古川町(現飛騨市)農村環境デザイン政策を報告する。
  同町農林課は、1999年制定の食料・農業・農村基本法に基づく諸農業施策を実行しながら、町域全体が農村といえる中で食料等を生産し、相互扶助のある地縁関係を保ち、地域の経済循環を図りつつ水源涵養や治山治水、生物多様性保全などの環境保全に寄与させるそれ自体が、地域の総合的経営政策にほぼ相当するとの認識を明確にする。そして、地域の資本資産の把握の上にその適正な管理と充実をめざし、ひいては土地・資源の持続利用を可能にしようと、2000年より風土性調査に着手し、風土の形成主体である町民の生活知を経験科学により評価するなどもしながら、当地の風土像を「朝霧たつ都」と表現するに至る。これは、雅びな家並みその他を擁する固有の文化が自然に依拠して成立する関係をあらわすと共に、「朝霧」すなわち盆地霧の発生を環境指標として地域経営を行うことで当地の資本資産の適正な管理と充実が成ることを示しているが、同年に古川町第五次総合計画の目標に採択され、以降はその達成に向けて環境保全的な農林業への所得保障その他の施策群が起案・実行できてゆくことになる。
  同町は、この一連の事業を「農村環境デザイン政策(飛騨古川朝霧プロジェクト)」と称し、現飛騨市に継承されている。その中では、良質の農林業による農業景観管理が、旅館業や飲食業等を含む観光業などその他の産業の振興につながり得ることを明示し、アーティスト・イン・レジデンスやグリーン・ツーリズム等の社会実験・実証事業を重ねることもしてきている。
  地域経営は、当地に存する資本資産の持続利用、つまりは適正な管理と充実があって安定的に継続できる。その基礎となるのが地域の資本資産の把握であり、それは地理学に基づく地域研究があって可能となり、地理学を生かしたランドスケイプデザイン、ランドスケイププランニングの応用から具体的な土地・資源の持続利用計画が立案・実行可能となる。このことの必要性と有効性を、実践を通して周知してゆくべきと筆者らは考えている。

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