日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 913
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要旨
中国華南地域へのホワイトカラーの都市間人口移動と定住への意志
*阿部 康久閻 陽林 旭佳張 寧
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抄録

中国で大卒者の就職にともなう人口移動について扱った研究としては,岳(2011)や葛ほか(2011)、馬と潘(2013) 等の研究がある.これらの研究によると,大学生の就業地選択に影響を与える主要な要因として,地域間での所得水準や就職機会の獲得確率の格差がある点が挙げられている.また,就職移動に影響を与えるその他の要因として,学生自体の人的資本の有無や家庭の経済状況,心理的コスト等も指摘されている.その一方で,半分以上の卒業生が出身地で進学・就職していることや大都市への移住に対する心理的コストの高さも指摘されており,移動しない人々の存在も重要であるといえる.とりわけ,東部(沿海部)地域の学生には移動しない人の比率が高く,省外への移動は,主に中西部(内陸部)の地域から東部(沿海部)への移動に限られる. 大都市に移住する場合でも、移住後の満足度に地域差がみられる。李(2011)の調査によると、北京、上海、広州という3つの大都市の中で、移住者らの移住後の満足度が一番高いのは広州であり、次は北京、最後は上海の順であった。このような満足度に影響を及ぼす要素としては、地域の生活施設への満足度、地域コミュニティへの帰属意識などが重要な因子となっていたという。 中国において大都市の中でも広東省に移動する他省出身者が多い点は、国勢調査等からも明らかになっている。例えば、2010年の国勢調査によると、国内主要都市である北京、上海、広東省(深圳・広州等)の3地域に同じくらいの距離に位置している湖北省から国内大都市への移動者数をみると、広東省へ移動した人の数が233万5227人と多いのに対して、北京へ移動した人の数は33万4,516人、上海へ移動した人の数は29万3,862人であった。また2010年国勢調査により、広東省に移動する人々の出身地をみると、湖南省4,602,147人、広西壮族自治区3,555,330人、四川省2,602,276人、湖北省2,335,227人、江西省1,871,182人、河南省1,762,133人、貴州省957,774人、重慶市933,918人等が、多くの移動者を送り出していることが分かる。本研究では、以上のように省外からの移動者が多い華南地域(香港を含む)を対象として、先行研究で示されていた点以外の要因として,どのようなものがあるのかを他省出身者58名に対するインタビュー調査に基づいて検討し、彼(女)らの華南地域への定住意志の有無について検討した。   調査手法としては、友人・知人を通して回答者を紹介してもらうスノーボール方式を採用したため、調査対象者の出身地や社会階層等には偏りがある可能性はあるものの,調査対象者の華南地域での定住への意識について,踏み込んだ分析を行うことを目指した。 調査結果として、回答者の月額収入は、7,000元未満の人が27人と多くみられる一方で、10,000元以上の人も18人おり二極化する傾向がみられる。また、華南地域では出身地に比べれば高い収入が得られるものの、地価などの物価の高さから生活費も高くなる傾向がある。全体的には支出額が収入と同じくらいかかっている人も多く、月額収入より支出の方が多い人も6人いた。また、結婚に際して、住宅や自家用車の購入等で、高い費用がかかるという点を指摘した人もいた。  ただし、収入が相対的に低い人でも、今後も広東での就業を続けたいと考えている人も多く、収入の水準が必ずしも華南地域での就業への満足度に大きな影響を与えているとはいえないと考えられる。具体的には華南地域で定住することを希望する人の場合、その理由として、配偶者や交際相手との関係から、広東で就業を続けたいと考える人もみられた(少なくとも6人)が、最も多く挙げられた点は「広東省では就業機会が多く、将来キャリアアップしていける見通しが持てること」(少なくとも14人)であった。 本調査の対象者では、短期的な賃金だけでなく、自身の専門に近い仕事に就く機会がある点や、将来のキャリアアップの可能性に期待して華南の都市で就業を続けたいと考える人が多かった点が指摘できる。

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