日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P010
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要旨
ボリビア・ラパスにおける20世紀の気候変化
*財城 真寿美水野 一晴塚原 東吾
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抄録

1.  はじめに
 地球温暖化にともない,南アメリカ大陸においては,熱帯林の減少や山岳氷河の後退など,さまざまな環境変化が報告されている.ラパスを含む熱帯アンデス地域では,0.10-0.11℃/10年(統計期間:1939-1998年)の割合で気温が上昇していることが報告されており,特に最近は0.32-0.34℃/10年(統計期間:1973-1998年)と温暖化が加速している.ラパス市は20世紀を通じて,人口増加や工業の近代化などを経験してきた.本研究では,20世紀初頭からラパス市の市街地において行われてきた気象観測記録をもとに,ラパスにおける20世紀の気候変化にどのような特徴があるかを明らかにしたい.
 2.  ラパスにおける20世紀の気象観測記録
 20世紀における長期間のボリビアの気象記録は, NOAA図書館のウェブサイト(http://docs.lib.noaa.gov/rescue/data_rescue_home _old.html)で,ラパスをはじめ,シュクレやコチャバンバなどでの気象月報や年報の画像が公開されている.本報告では,20世紀に長期間かつ継続して気象データが得られるラパス市街での気象観測記録を扱う. ラパスでの気象観測は,1890年,現在も中心市街地に位置しているイエズス会のColegio San Calixtoの構内(16º29'43"S,68º7'57"W, 海抜3658m)において,Ricardo Manzanedo牧師によって始められた(Udias,2003).その後,観測所はイエズス会によって,非営利民間団体Observatorio San Calixtoとして運営された.NOAAのウェブサイトでは,このObservatorio San Calixtoにおいて行われた気象観測の記録 ”Resúmenes generales anuales de las observaciones meteorológicas” の一部が公開されている.この記録には,1918-1948年, 1962-1979年(1973年は欠損)における,気温・気圧・湿度・水蒸気張力の最高・最低・平均値と総降水量などの月統計値が掲載されている.また,月降水量については,1891年1月-1930年12月と1898年6月-1948年3月の一覧表とグラフが付随しており,より過去にさかのぼったデータが得られる. 
 3.  ラパスの気候変化
 年平均気温,日最高気温と日最低気温の年平均値は,データ前半(1918-1948年)の時系列には顕著な変化が見られない.一方,後半(1962-1979年)は平均気温がやや上昇傾向となっているのに対して,日最高気温が下降傾向に転じている.また,全データ期間における変化の割合は,日平均気温は0.29℃/10年,日最高気温は-0.23℃/10年,日最低気温は0.05℃/10年となる.また,年降水量の長期的な変化傾向は見られないが,周期的な変動を繰り返している.1920年代中頃と1930年代後半,1960年代後半から1970年代にかけて,総降水量と降水日数ともに少ない時期があった.  ラパスの季節変化のパターンを20世紀の前半と後半でハイサーグラフにより比較すると,両者は大きく変位している.乾季(5, 6, 7, 8月)については,明瞭な上方への変化とやや左方向への変位が認められる.これは,顕著な気温上昇と降水量のわずかな減少を表している.乾季の乾燥化については,1976-2013年のエル・アルトの気象データにもとづく解析結果でも指摘されており,この地域では長期的に乾燥化の傾向が長期間継続していると考えられる.一方で,雨季(1, 2, 3, 12月)には,右上方向への変位があるので,気温の上昇と降水量の増加傾向があるといえる.降水量の日データがないので,推測の域を出ないが,特に雨季の終盤にあたる3月の降水量の増加傾向が顕著であることから,雨季の期間が長期的に変化している可能性も考えられる.

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