日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 1015
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要旨
八幡平における湿地の分布特性と形成環境
*佐々木 夏来須貝 俊彦
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抄録

1.はじめに
 湿潤変動帯に属する日本においては,山岳地域にも広く湿地が分布している.山岳湿地の形成要因については,これまで第四紀の気候変動と関連づけて論じられることが多かった.地形条件としては,古くから氷河地形や火山地形が着目され,近年では地すべり地形が山岳湿地の形成に非常に重要な役割を果たしていることが指摘されるようになってきた(Takaoka 2015; Sasaki and Sugai 2015).また,大丸・安田(2009)は,湿原を「地下水涵養型」と「雪田草原型」に類別し,雪田草原型湿原が気候変動に伴う降雪量減少の影響を受けるであろうことを指摘するとともに,地下水涵養型湿原が温暖化の影響を受けにくいだろうと予想している.つまり,湿地の成立条件と遷移過程を明らかにするには,気候変動のみならず,水文環境,地形条件を考慮した総合的な理解が必要である.
 本研究では,様々な成因の湿地が混在する八幡平火山群を研究対象地として,湿地の分布と特徴を地形と水文環境の観点から検討する.「湿地」は水分が豊富な様々な地表状態を指す言葉である.本研究では,湿地の中でも特に,湿性の草原を指す場合には「湿原」を用いる.

 2.研究方法
  国土地理院が1976年に撮影したカラー空中写真を用いて,八幡平火山群内の面積100 m2以上の湿地を対象に判読し,湿地を「池沼」・「湿原(湿性草原)」・「湿原を伴う池沼」の3つのタイプに分類した.地形については,空中写真および数値標高モデル(10 m-DEM)を用いて火山原面,地すべり地形,開析斜面,谷底平野に地形面区分するとともに,ArcGISを用いて,10m-DEMから逆距離加重法により100mメッシュの標高ラスタを発生させ,斜面方位角,斜面傾斜角を計算した.尚,対象地域内の湿地の90.2 %が面積10000 m2以下である.

3.八幡平火山群の地形と湿地
八幡平火山群は,複数の第四紀成層火山で構成され,奥羽山脈の一部をなす.域内最高峰の八幡平火山(1614 m)から南へ標高1400 m程度の稜線が続き,北部では東西方向に火山が連なる.火山体は多様なサイズの地すべりによって侵食が進んでいる.八幡平火山群内の526の湿地のうち,火山原面上に存在するものは262,地すべり地(土塊)に存在するものは185であった.火山原面上に存在する湿地は,主に,奥羽山脈の主稜線沿いの雪田や八幡平火山山頂付近の火口湖である.
Fig.1に火山原面および地すべり土塊上の湿地の標高別分布を示す.標高によって地形面の面積が大きく異なるので,各標高帯ごとに湿地数を地形面面積で除して正規化した.火山原面上の湿地は,高標高域に極度に集中しているのに対して,地すべり土塊上の湿地は,低標高域にも見られる.火山原面上では,雪の吹き溜まりとなりうる稜線沿いの鞍部や,多数の噴火口が存在する八幡平火山山頂付近に湿地が集中していることが反映されている.地すべり地内では土塊表面の凹地形内に湿地が形成され,気候だけでなく微地形の影響を大きく受けているため,低標高域にも湿地が分布すると言える. Fig.2は湿地の斜面方位別頻度分布を示す.Fig.1と同様に各斜面方位の地形面面積で正規化した.地すべり地内の湿地は湿地群(黒谷地湿原)の存在を受けて西向き斜面で例外的に多くなっている点を除けば,特定の向きに集中する傾向は見られない.一方,火山原面上では南から西向き斜面上に湿地が多く分布している.一般的には,冬季に北西季節風の卓越する山地においては,風背側となる東向き斜面の積雪が多くなり,雪田草原が形成されると考えられている.しかし,八幡平の場合は,火山原面の斜面傾斜角が平均で9.4°と非常に緩やかで,稜線沿いも森林限界には達していないことから,オオシラビソの疎林が堆雪効果を発揮して,西向き斜面でも鞍部では湿地形成に十分な積雪が得られると推測できる.

引用文献
 大丸裕武・安田正次 (2009) 地球環境 14: 175-182.; Sasaki, N. and Sugai, T. (2015) Geographical review of Japan series B 87: 103-114.; Takaoka, S. (2015) Limnology 16: 103-112.

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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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