日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 723
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要旨
退耕還林を経た黄土高原農村における行政村単位の地域間格差
陝西省・呉起県呉倉堡郷を例に
*原 裕太淺野 悟史西前 出
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抄録
1.  背景と目的  
中国・黄土高原では,深刻な土壌侵食を緩和するため,斜面耕作地等を植林し,かつ植林実施者への食糧や現金の補助等を支給する「退耕還林」が実施されている。これまで,中国国内外の様々な研究において退耕還林の社会経済的な影響が評価されてきたが,郷鎮内部における地域空間の特徴が不明なまま,任意の対象村の状況を用いて,より上位の空間の説明が試みられており,地域内での社会経済的な均一性が前提となっている。しかし,複雑な地形や,市場経済化の進展による地域ごとの多様性が拡大したことにより,行政村や村落ごとの社会経済的な差異が存在すると推察される。本研究では,郷鎮内部の行政村に着目し,地域間格差の解明を試みる。
 
2.  対象地域と研究方法
陝西省呉起県は,退耕還林の先駆的地域で,1998~2010年の間に46.3%の耕作地が消失している。対象地である呉倉堡郷は呉起県を構成する9つの郷鎮の一つで,郷内には17の行政村がある。地形は黄土丘陵が卓越し,標高は1,335~1,728mで乱石頭川が郷の領域を縦断しており,それに沿って地域の主要な幹線道路が通っている。
分析には,2013年における行政村単位の統計情報を用い,退耕還林の影響が最も直接的に生じてきたと考えられる「常住人口あたり耕地面積」,「一人あたりの収入」,「最低生活保障対象世帯率」の3つの尺度を選抜した。これらを,標準化した後,非階層クラスタ分析(K-means法)により行政村を4群に分類し,その空間分布特性を考察した。  

3.  結果と考察
クラスタAは,一人あたりの収入が高く,最低生活保障対象世帯率と常住人口あたり耕地面積が小さい。クラスタBは,一人あたりの収入と最低生活保障対象世帯率がともに低く,常住人口あたり耕地面積は中程度である。クラスタCは,クラスタBと同様に,一人あたりの収入と生活保護受給世帯比率はともに低い水準にあるが,常住人口あたりの耕地面積は他のクラスタに比べて大きい。クラスタDは,一人あたりの収入が低く,かつ最低生活保障対象世帯率が高く,常住人口あたりの耕地面積が小さい。それぞれの行政村の分類結果を地図上でみると(図1),クラスタAは,すべて幹線道路と乱石頭川に沿って分布し,そのほかのクラスタに属する行政村は,いずれも山間部に位置することが明らかになった。
以上,河岸地域と他の地域との間では,アクセシビリティや地形条件等による社会経済的格差が顕在化していると推察された。そのため,今後は行政村の立地環境を考慮した上で退耕還林を評価していく必要がある。
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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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