日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P009
会議情報

要旨
WebGISをベースとした市民参加型気候変動影響モニタリングシステムの概要
*畑中 健一郎浜田 崇陸 斉
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抄録
1.はじめに
長野県内においても、暖地系のチョウの北上が確認されるなど,気候変動による自然環境への影響とみられる現象が指摘されている。こうした自然の変化を記録し、気候変動の影響を分析するためには、県内各地で継年的にモニタリングする必要があり、多くの市民の協力が不可欠である。また、市民が自らモニタリングすることで、気候変動影響への関心を高め、対策への理解も深まるものと期待される。そこで、身近な生きものなどを指標として、気候変動影響把握のためのモニタリングを市民参加で実施するためのシステムの構築を行ったので、その概要を報告する。
2.システムの内容
市民からの観察情報を収集・発信する手段としては、防災科研が開発した参加型WebGIS「eコミマップ」を主体としたサイトを構築した。観察情報の登録は、マップ上で地点を指定し、観察日やコメントの入力、写真を添付可能とした。メールやFAX、郵送で寄せられた観察情報は担当者が代行入力することとした。
2011年12月に「信州・温暖化ウオッチャーズ」と名付けたサイトを試験的に公開し、運用方法や操作性の検証を行いながら、会議室機能の追加や観察対象の解説ページの作成などサイトの充実を図り、2013年3月に本格運用を開始した。
3.観察対象
観察対象は、鳥・虫・草木・田畑・雪や氷の5つのカテゴリー別に、季節ごとに数種、合計38種を選定した。選定にあたっては、気候変動に伴って分布を変化させたり、開花時期を早めたりすることが想定される種や、一般の市民でも誤認が少ないと思われる種を中心に選定した。
また、2014年から夏期の集中調査として、セミの県下一斉分布調査を実施している。観察対象は、比較的多くの地域で観察できる種として、ニイニイゼミ、ヒグラシ、アブラゼミ、ミンミンゼミ、ツクツクボウシの5種を選定し、そこにクマゼミを加えた計6種とした。クマゼミは、西日本に多く生息する種で、長野県内では県の南部で稀に確認されているが、今後気候変動に伴って分布を北に広げるのではないかと考えられている。これら6種について、鳴き声、成虫、抜け殻を観察した場合に報告を求めた。
4.実施結果
登録メンバー数は2016年1月現在約130名である。観察情報の報告件数は、2013年度が年間400件、2014年度が461件であった。季節的には春と秋の報告が多い傾向がみられた。
セミの県下一斉分布調査は「信州まるごとセミ♪探し」と名付けて実施し、2014年度は222件、2015年度は168件の報告があった。両年ともミンミンゼミの報告が約30%を占めるなど、種の割合に大きな違いはみられなかった。観察時期についても、まずニイニイゼミ、次いでヒグラシの報告が多くなり、7月中・下旬からはアブラゼミとミンミンゼミの報告が急増し、6種合計の報告数も最多となり、8月に入るとツクツクボウシの報告が増加するなど、両年とも同じような傾向が見られた。クマゼミは、2014年は計4件の報告があり、うち2件はこれまで生息が確認されていなかった県北部の長野市からであった。2015年は県南部から計4件の報告があった。
5.今後の課題
今後の課題として、「データの精度」、「経年的なデータの蓄積と分析」、「参加者数と報告数の拡大」の3点を挙げておく。一般市民から提供された観察情報の中には、信頼性が疑われるデータも含まれる。すべてのデータを専門家が検証することは不可能であるため、観察対象の説明をより詳しくするなどの工夫が必要である。また、気候変動の影響をみるためには、モニタリングを長期間継続し、分布の変化や発生時期の変化を捉え、気候の変化との関係を分析する必要がある。参加者に関心を持ち続けていただくためにも、分析結果を示すことが重要であると考える。報告数に関しては、現状では種別の分布図として示すまでには至っていない。多くのデータを集めることが、データの蓄積と同時に、より精度の高い分析に繋がると考える。PRの方法を工夫するなどして参加者の拡大を図る必要がある。
今後さらに改善を進め、気候変動影響に関するデータの収集・分析と普及啓発を同時に図っていくためのシステムとして運用していきたい。
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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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