抄録
報告者は本学会の2015年春季学術大会において、教員が用途に応じて地図を搭載して地図上に写真や新聞記事などの情報を付与できるオフライン稼働型のシステムを「デジタル地図帳」と名付けて提案した。その後、沖縄県那覇市と宮城県多賀城市での実践をまとめた(伊藤:2015)。実践を積む中で明らかになった課題を解決するために、システムの改善を図り修学旅行の事前学習・現地研修用の教材を制作した。
前回の報告時に用いたアプリは、メーカーが自治体や観光協会などの公的機関への販売を目的に開発したものを教材に転用したものである。このため、不特定多数の学校、指導者が応用することは困難だった。 フリーソフトを組み合わせることで解決を図った。 また、地図やデータを不特定多数のユーザーに公開することを前提とするアプリでは、地図の版権者(特にハザードマップを管理する自治体)や、新聞社(記事の二次利用権利)の許諾を得る事が難しい場面があった。そこで、指導者と生徒の端末のみで共有できるシステムとし、著作権法35条(学校および教育機関における著作物の二次利用)の範囲に収まるようにした。
基幹アプリにフリーソフトの「PDF Map」を用いた。パソコンのフリーGISソフト「QGIS」を使って旧版地形図、地理院地図の画像、観光案内図などを位置情報付き画像ファイル(Geotiff)に変換し、タブレットで読み込んだ。各時代に対応した新聞記事にも位置情報(ジオタグ)を付与して読み込むと、地図上にアイコンとして埋め込まれるので、開いて読むことができる。また、現地で撮影した写真をその場で地図上に埋め込み、回収することもできる。
今回のシステムで用いたアプリでOSの選択肢も広がった。また、著作権、二次利用権にも配慮を進めることができた。ただ、前作に比べて教材構築までのプロセスは複雑になった。作業を簡略化させ、ノウハウを公開した上で、「アプリ作り」における生徒と教師の役割分担、日常的に授業で活用するための教材の多様化など、今後も検討を重ねていきたい。