日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 506
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要旨
大規模農業生産法人による農地の再配分と稲作のコスト削減
岩手県一関市奥玉地区を事例に
*庄子 元
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抄録

日本の農業は、離農の増加や高齢化の進行といった農業労働力の量的減少と質的変化、輸入農産物との競合から規模拡大による効率化が促されている。こうしたなかで、従来は農業機械の共同利用や農作業の共同実施によって農家の農業経営を補完していた集落営農は法人化が求められ、複数の集落にまたがる範囲で農地集積を行っている集落営農も少なくない。しかし、農産物価格、とりわけ米価の下落は著しく、集落営農や農業生産法人はより一層の効率化が求められている。加えて、農業労働力の減少は顕著であり、組織の担い手をいかにして確保するのかが模索されている。以上を踏まえ、本報告は米価が下落しているなかで大規模農業生産法人がどのように農業経営を存続させるとともに、組織の担い手を確保しているのかを検討した。  
本報告の事例である「おくたま農産」は一関市奥玉地区に属する7集落から成る農事組合法人である。奥玉地区は1996年から2007年にかけて基盤整備事業が行われ、上記の各集落に営農土地組合が設立された。これらの営農土地組合が各集落内農家の農地利用の意見調整を行い、「おくたま農産」は2007年に設立した。2014年現在の構成員は340名であり、役員は5名、役員を含めたオペレーターは12名である。「おくたま農産」の経営耕地面積は165.31ha(2014年)である。その内訳は水稲73.51ha、備蓄米20.03ha、大豆25.39ha、飼料用米28.57haであり、これらは経営耕地面積の89.2%を占める。残る10.8%にはデントコーン(4.52ha)やトマト(4.18ha)、小菊(3.56ha)が作付けされている。これらの作物を生産している主体に注目すると、土地利用型作物は「おくたま農産」のオペレーターによって作付けされている。対して労働集約的作物は個別農家や集落組織によって生産されている。こうした「おくたま農産」の作物生産は農地の再配分が基本となっている。構成員である農家は基盤整備された所有農地をすべて「おくたま農産」へ貸し付ける。そして、オペレーターが担う土地利用型作物の作付け圃場が決まる。その後、労働集約的作物の作付けを希望する個別農家や集落組織に農地が配分される。その際には「おくたま農産」が支払った地代と同額が借入面積に応じて個別農家や集落組織から支払われる。  
こうした利用農地の再配分は二つの効果を「おくたま農産」にもたらしている。第一は土地利用型作物の農作業の効率化である。平坦部に位置し、比較的面積の大きい圃場に土地利用型作物を集中して作付けすることで大型の農業機械の利用を可能にしている。これによって「おくたま農産」は稲作の生産費を削減している。それに加えて、圃場面積や設備投資などから篤農的な農業経営体でなければ成立しにくい稲作の湛水直播を導入し、稲作の生産費はさらに削減されている。第二は労働集約的作物を生産する個別農家と大規模農業生産法人が併存することである。現在の「おくたま農産」の役員は60代の複合経営農家である。そのため、「おくたま農産」は労働集約的作物を生産する個別農家と大規模農業生産法人が農地の再配分を通じて結びつくことで農業の経営感覚を有する将来的な組織のリーダーの確保を目指している。このように「おくたま農産」では利用農地を再配分することで稲作のコストを削減するとともに、将来的な組織のリーダーを確保しているのである。

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