日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0101
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要旨
いまあらためて農山村の価値を考える
*宮口 とし;廸中川 秀一
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抄録

はじめに
ここでいう農山村は、大規模化による効率的な農業が可能な平野部の農村を除いた、中山間地域に重なる地域をイメージしており、そのほとんどが過疎地域に指定されている。
この数年、農山村に対する関心が高まり、多くの著作が刊行されている。さらに、農山村に定住を希望する世代が、50歳代から20~30歳代にシフトしているといわれる。
 農山村のほとんどは人口減少と高齢化が続いているが、宮口は、早くから国レベルでの人口減少時代の到来を見据え、特に過疎地域では、減少を前提とした地域社会の再構築を考えるべきだと主張してきた。そこで基本に置くべきは、成長する都市とは異なる、暮らしの場としての農山村の地域社会の価値である。実際、多くの農山村においては、人口減少・高齢化のきびしい数値にもかかわらず、元気な高齢者の姿が目立つ。

政策の上での地域認識
5番目の全総計画21世紀の国土のグランドデザイン(1998)では、拡大成長に濃く彩られたそれまでの計画に対して、多自然居住地域の創造という戦略が盛り込まれた。小都市・農山村地域が、さらなる成長が期待される県都クラスの都市とは異なる戦略を持つべきという趣旨に大きな意味があったと考えている。
さらに現行過疎法(2000)では、「多様で風格ある国づくりへの寄与」「国民が新しい生活様式を実現できる場」などが過疎地域の役割として記述され、農山村が都市とは別の価値を持つ存在であることが、国の政策にも反映される流れが生まれた。

地域おこし協力隊の制度化
その後総務省は2008年に集落支援員、2009年に地域おこし協力隊を制度化した。これは人材不足に悩む地域の、補助金よりも補助人をという要望に応えたものでもある。特に地域おこし協力隊は、都市の比較的若い世代が農山村で暮らすことに強力な道筋をつけ、田園回帰と呼ばれ始めた流れに大きく貢献している。

社会論的価値と人間論的価値
ここでいう農山村地域は単純な生産力という点ではかなり低位にあり、高齢化も極度に進んでいるが、集落には地域社会としての支え合いがあり、われわれはこれを社会論的価値と考えたい。また、小規模な農林業には人が自然を巧みに利用するワザが蓄積されており、これを人間論的価値と受けとめたい。そしてこれらは、地域に入る若者にとって農山村の持つ大きな価値と受けとめられている。

シンポジウムの構成
シンポジウムは趣旨説明に続いて、近年農山村について積極的に発言している研究者3名から、中條氏の高齢者像の再構築につながる農山村の価値の提唱、筒井氏の新たな都市農村関係ととらえられる「田園回帰」の実態と展望、作野氏の最近の人の移動を踏まえた農山村の暮らしの場としての価値の提示、という報告が続く。そして行政関係者として、限界集落という用語のきっかけとなった大豊町長の岩崎氏から、きびしい過疎山村の中での森林の活用の動きを、地域自治組織の再編の中で積極的に地域おこし協力隊を活用している朝来市の馬袋氏からはその実態を報告してもらう。これらに対する小田切・宮地両氏のコメントの後、意義のある総合討論を期待したい。

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