日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 923
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要旨
高等学校におけるGISを活用した地理学習の効果と課題
*加藤 伸弥
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抄録

Ⅰ はじめに
2013年に愛媛県内の地歴公民科教員を対象として実施されたアンケートによると、GISを実際に授業で利用したことがある人は少ないものの、GISソフト・地図閲覧サイトを用いた授業を「やってみたい」という人は調査対象の60%前後存在している(加藤 2015)。
本研究では、GISソフトを実際の授業で使用し、生徒への確認テストやアンケートをもとに地理学習におけるGISの活用の有効性について検証し、その汎用性や課題について考察する。
Ⅱ GISを活用した授業実践
2014年5月と2015年5月に、愛媛県立松山東高等学校の2年生を対象としてGISを用いた授業実践を行った。授業内容は地理Bの「地図の活用と地域調査」で、主に尾根線・谷線の理解を目的にカシミール3Dを活用した。まず、2万5千分の1と5万分の1地形図における等高線の種類について教員が説明し、次に生徒に単純な小山の等高線から地形断面図を描画させた。その際に教員から尾根線・谷線について説明した。その後、教室から見える景観の地形図を,カシミール3Dを用いて表示した。地形図の画像は真上から見たもの平面のものと,斜め上から見た鳥瞰図の2つを描画し、より立体的に見せることによって理解の定着を試みた。さらに、練習問題として山地(石鎚山系)の地形図をカシミール3Dによって等高線のみの白地形図に加工し、尾根線・谷線の記入およびそれからわかる集水域や視認域を問う問題を作成して実施した。図中には尾根は赤線、谷は青線で加筆し、どこが尾根でどこが谷かを見た目で判断できるようにした。さらに最後には、7~8分程度の時間を使って尾根線・谷線の読み取り、縮尺の判別、比高・面積・集水域等を問う計10問の確認テストを実施した。
以上のようなGISを用いた授業の効果を検証するため、2クラス(生徒人数70名)ではカシミールで作成した画像を用いずに等高線や尾根線・谷線の説明をして確認テストを行い,その後にカシミールで作成した鳥瞰図を示した解説を行った(パターン①)。一方、2クラス(71名)ではGISを用いた授業のみを行った(パターン②)。確認テストには授業のわかりやすさや理解の深まりを問う簡単なアンケートも付した。パターン①では授業を2回行うため、同一の確認テストを2回行った。アンケート部分もほぼ同一の内容で実施した。
Ⅲ GIS活用の効果
本研究の結果として、GISの効果は、読図や空間認識が苦手な生徒により強く表れることが判明した。
カシミール3Dを用いた授業では、授業を受けた生徒や見学した教員の反応は非常に良く、従来の紙媒体の地図と説明のみの授業では得られなかった手応えを感じることができた。実際にGISを用いない授業と、GISを用いた授業を両方行ったパターン①のクラスでは、半数以上の生徒がGISを用いた方がわかりやすかったという感想を述べている。確認テストの結果からも、GISが生徒の理解の妨げになることはなく、得点の低い生徒の点がより上昇する効果は確実にあると判断できる。
アンケートの結果からは、尾根線・谷線の理解について、パターン①の生徒は1回目よりも2回目の「よく理解できた」が大きく上昇した。また、パターン②のアンケート結果では、「尾根線・谷線が理解できたか」という質問に対して「まったく理解できなかった」「苦手」「できない」と否定的な回答をする生徒がいずれも極めて少なかった。否定的な回答をする生徒が減ったというのは、地理全体および読図や空間認識の理解がより苦手な生徒にとってGISが有効であったということに他ならない。
Ⅳ まとめ
読図や空間認識は感覚的な要素が多く、今までそれが苦手な生徒についての有効な指導は確立されていなかった。しかし、GISを活用することで感覚的な部分を補完して理解を促進できると考えられる。これは、苦手なものはしょうがないと手をこまねいていた現状をGISの利用によって改善できる可能性を示唆するものであり、尾根線・谷線だけでなく、それ以外の分野での利用を開拓していけば、より効果が期待できるものと思われる。また、今回使用したカシミール3Dの基本的な利用方法は短時間で習得でき、教師側の負担は大きくはなく、少ない労力で大きな効果が得られるといえる。
今までGISを利用するというと、生徒にパソコンで何らかの地図を作らせるということを最終目標にする例が多かった。しかし、設備や授業時間などの現状を考えると教員がGISソフトで作成したものを生徒に見せるということに特化していった方がより現実的である。紙の地図とGISとを組み合わせて、最も効果的に教室で生徒にみせるという発想に転換するべきである。
なお、本発表は2015年3月に愛媛大学大学院教育学研究科に提出した修士論文の一部である。

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