抄録
近年の地理空間情報技術、情報通信技術の発展と、2007年に制定された地理空間情報活用推進基本法に基づく様々な施策の展開を背景に、地理空間情報の活用は急速に広がりつつあり、いつでもどこでもだれでも地理空間情報を日常的に活用する社会が実現されつつある。一方で、国民、特に若年層において、最低限の地理的知識などの地理空間情報リテラシーが低下しているとの指摘がある。また、地理空間情報のさらなる活用推進には、十分な空間認知能力とGISに関する技術、それに一定の常識的な地理的知識を備えた地理空間情報技術の担い手の育成が必要である。 このような中、中央教育審議会では学習指導要領の改訂に向けた検討が進められており、2015年8月に公表された同審議会教育課程特別部会論点整理では、「持続可能な社会づくりに必要な地理的な見方や考え方を育む科目「地理総合(仮称)」 の設置を検討することが求められる。」とされ、高校地理の必履修化に備えた教員の知識とスキルの向上が急務である。 さらに、2011年の東日本大震災の痛ましい経験を教訓に、防災における自助、共助の重要性が叫ばれている。このためには、幼少期から防災教育を進め、自然災害に関する心構えと知識を備えた個人を育成することが必要であり(国土交通省,2015)、自らの命と生活を守る観点からも地理的な見方、考え方を身につける地理教育の重要性が高まっている。
国土地理院は、これまでも、「地図と測量の科学館」への児童生徒の受け入れや「全国児童生徒地図優秀作品展」の実施、職員による学校への出前授業など、さまざまな地理教育を支援する取組みを行ってきた。しかしながら、基本的な測量の実施と地理空間情報の整備、提供を行う機関であるとの意識が根強く、地理教育の支援はどちらかというと受身的な対応であったことは否めない。 地理教育を強力に支援することにより、次の世代によりよい国土、健全な国土を引き継いでいくことは、国土地理院の重要な任務のひとつであるとの認識のもと、2015年11月に、院内に地理教育支援チームを設置し、検討を開始した。まずは、地理教育を取り巻く現状を把握し、取り組み方針を策定するとともに、学術団体や教育関係者との協力関係を構築することに取り組んでいる。
具体的な取組みのメニューとしては;
1)教育現場の支援
・教員の理解の促進 全国レベル、地域レベルの教員研究会、教員を対象としたセミナー、教員免許講習会などの場で国土地理院が提供する情報や活用方法などの説明を行う。
・教材・素材の整備・提供 国土地理院のデータの教育現場での利活用方法や、現場で使いやすいように加工した地図などを、教員がいつでも入手可能な方法で提供する。
・教科書会社等への情報提供 教科書や教材を制作する会社等に対する説明会を行う。
・学会等との連携 教育現場を支援する学会等の取組みに協力する。
2)児童生徒と保護者へのアプローチ
・出前講座、出前授業等の積極的な実施 電子基準点が設置してある学校などをターゲットに、積極的に出前授業等を提案する。また、地域レベルできめ細かい対応ができるよう、本院、地方測量部の組織体制を強化する。
・児童生徒地図優秀作品展の支援 各地の児童生徒地図作品展を支援するとともに、全国作品展での大臣表彰などを引き続き実施する。
・地図と測量の科学館の活用 つくばの本院にある地図と測量の科学館を積極的に活用し、児童生徒の見学受け入れや、学会等と連携したスクーリングなどを実施する。
3)防災教育
・ハザードマップ等の情報提供 ハザードマップポータルや地理院地図等を通じてハザードマップや土地条件図等の防災に資する情報が容易に入手できる環境を整備する。
・国土交通省、気象庁等との連携