日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 1005
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要旨
ケニア山における水循環とその変化が山麓水環境に及ぼす影響
*大谷 侑也
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抄録

 東アフリカ中央部にそびえるケニア山(5199m)は赤道直下にあるにもかかわらず、その頂に氷河を有する。しかし、近年の地球規模での気候変動により、その「熱帯の氷河」は急速に縮小している。もし山麓域の地下水が消えゆく氷河を主な水源としているならば、将来的にその量は減少すると考えられる。それが現実となった場合、地域住民生活および生態系に及ぼされる影響は大きいと考えられる。また、同じ東アフリカに位置するキリマンジャロ山の氷河も同様に近年、急速に縮小している。その山麓域のアンボセリ湿地はサバンナにおいて貴重な水場となっており、豊かな生態系を育んでいる。しかし、その湿地水の由来や水質、氷河との関係性を調べた研究は未だ無い。当該地域の生態系を維持、保全する上でそのような情報を得ることは喫緊の課題である。
 ケニア山およびキリマンジャロ山と、両地域の山麓の水環境を把握するため、2015年に現地調査を行った。ケニア山では河川水、湧水、氷河、降水を採水し、現地観測を行った。山麓域では湧水、河川水を採水、現地観測を行った。キリマンジャロ山では氷河融解水を採水し、山麓域のアンボセリ湿地では湿地水、湧水をサンプリングした。サンプルは総合地球環境学研究所(地球研)のpicarro2号器(picarro社製)を用いて酸素同位体比測定(δ18O)を行った。その結果、ケニア山および山麓域で標高毎に採水された降水サンプルのδ18Oから、明瞭な高度効果(標高が高くなると酸素・水素同位体比の値が低くなる効果)が見られた。この直線により、湧水の涵養標高を推定することができる。ケニア山山麓域で採水された湧水のδ18Oの値は-4.1‰、−3.6‰であった。この値を高度効果の直線にあてはめると、約5000m付近の水が地下にしみ出し、山麓で湧出していると推察される。5000m付近は氷河や雪の解け水が多く存在する場所であり、今回の結果から、それが麓の湧水に多く寄与している可能性が示された。一方でキリマンジャロ山山麓のアンボセリ湿地水のδ18Oは−0.9‰から−5.5‰まで幅広い結果が得られた。このことから湧水地点によってその涵養源が異なることが示唆された。 
 また、ケニア山山麓の湧水中のウラン濃度は同じ成層火山である富士山のものと比べ100倍近い値を示した。地下水中のウラン濃度は、地下の花崗岩の存在量が多いほど濃くなることが知られている。玄武岩はマグマが地下で冷却され固まったものである。ケニア山は活発な活動を続ける東アフリカ大地溝帯の中央に位置するため、その地下には大量のマグマが存在する。今回得られた湧水中ウラン濃度から、ケニア山の地下には大地溝帯のマグマが姿を変えた花崗岩が大量に存在することが示唆された。

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