日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0302
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要旨
気象の極端化に伴い今後発生が懸念される東京の大規模浸水
*関根 正人
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抄録
近年,地球規模の気候変動が進み,気象が極端化してきたと言われている.このことはIPCCの第五次評価報告書を引用するまでもなく,我が国で最近発生した事例を見れば明らかである.たとえば2011年の紀伊半島豪雨,2013年の伊豆半島豪雨,2014年の広島豪雨がこれに当たる.また,2015年9月には鬼怒川の堤防が決壊するという被害まで起こった.極端に規模の大きなこのような豪雨は全国いたるところで発生するおそれがあり,どこで同様の被害が起こっても不思議ではない.極端気象の条件下では,ハードウエアにより被害を封じ込めることは不可能である.被害軽減のため今後もハードウエア整備は必要であり,被害発生を遅らせることも肝要である.ただし,それだけでは不十分であり,いざというときに住民自らが避難して命を守ることがきわめて重要である.
行政による効果的な減災対策と住民の適切な避難行動を促進するためには,今後起こりうる豪雨の規模を見定め,これに対してどの程度の規模の浸水・氾濫がどのようなプロセスで発生するかを,科学技術の粋を集めて精緻に予測できるようにする必要がある.また,その結果を住民にわかりやすく伝えなければならない.また,住民は自ら暮らしているエリアの潜在的な浸水危険度について日頃から関心をもち,避難情報に注意を払わなければならない.なお,これまで浸水ハザードマップが各自治体から公表されてきたが,予測精度を向上させることに加えて,情報の伝え方の練り直しが必要である.行政から住民への情報の一方通行では意味がないのである.
本講演では,まず極端化する気象ならびに近年の豪雨被害の実状についてふれる.その後,東京都23区に焦点を絞り,今後懸念される都心部の大規模浸水について説明する.講演者は,名古屋で発生した2000年の東海豪雨の被害を目の当たりにしたことを契機に研究を開始させ,荒川からの大規模氾濫も含めた「都市浸水」を可能な限り精緻に予測する手法の開発に努めてきた.この計算には,下水道や都市河川に代表される都市インフラに関わる情報がすべて忠実に考慮されており,現実に即した浸水予測が可能である.講演時にはこの手法を用いた数値予測の結果を紹介し,これを踏まえて東京都心部の浸水リスクについて一緒に考える機会としたい.また,浸水ハードマップのようなリスク情報はどうあるべきかについても,改めて議論するきっかけとなるようにしたい.
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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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