日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 622
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要旨
ケニア・ナイロビのスラム街キベラにおけるトイレを中心とした衛生環境と地域社会
*水野 一晴
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抄録

1.スラム街,キベラの発達
人口300万人を超す東アフリカ第一の都会ナイロビには郊外に出稼ぎ民の居住地区がある。その一つは、19世紀末にスーダン南部からイギリスが強制連行してきたヌビア人傭兵のための軍用居留地であったものが、1940年代以降からスクウォッター(不法占拠)化し、出稼ぎの町となった南部のスラム街、キベラ地区である。キベラは、植民地政府が計画的なナイロビの都市開発を推進しようとした際に、抵抗としてヌビア人らはキベラに無許可で長屋をつくり、ルオなどの出稼ぎ民たちに賃貸したため、キベラの人口は急増することとなった(現在推定人口約100万人)。 キベラのようなスラムではさまざまなインフォーマルセクターの経済活動が発達している。キベラのスラムは、ナイロビとキスムを結ぶ鉄道の線路沿いに展開しているが、その線路脇にはさまざまな生活用品を売る屋台のような簡単な店が延々と軒を連ねている。廃タイヤからゴム草履、古いブリキから鍋やフライパン、廃材から家具というような、資源をリサイクルして製造・販売する、おもに男性による手仕事もあれば、仕立屋や美容院など女性が活躍する商売など多種多様の仕事場が混在している。
2.スラム街、キベラの衛生環境

キベラには、病院や公立小学校などはなく、キリスト教の教会やNGOなどによって運営されている小学校があるにすぎない。キベラの中でも比較的経済力のあるわずかな人たちが水道を引き、多くの人たちがその水を買って暮らしている。また、ゴミはいたるところに捨てられ、トイレも限られているため公衆衛生面に問題が多い。トイレは長屋に一つあるのが一般的で(長屋の大家が一つのトイレを設置)、20~40世帯にトイレが一つあるくらいの数である。長屋にトイレがない場合は公衆トイレを使用する。公衆トイレは1回紙代を含んで5ksh(約6円)くらいである。トイレの数が少ないのは、トイレをつくるのにこのあたりの固い岩盤を掘らなければならず、岩盤の上にバラックの家を建てるより建設費がかかるためである。雨季にはトイレからの汚水がスラム街にあふれ、強烈な匂いが立ちこめる。
3.スラム街、キベラの地域社会

キベラのある世帯の場合、6畳くらいの広さの部屋を月1500ケニアシリングksh(約1800円)で家主から借り、そのほかに月300ksh(約360円)の電気代を家主に払っている。ちなみに家主は電線から勝手に線を引っ張って電気を盗んでいるのだが、キベラではそれが普通になっている。この家庭の場合、夫は健康に問題があるとして働いておらず、妻が野菜を売って1日に約50ksh(約60円)を稼ぎ、ときどき洗濯の仕事もして、洗濯をした日は300ksh(約360円)くらい稼ぐというが、家賃を払うだけで精一杯である。洗濯は、固定客の家にときどき御用聞きに回り、その家の軒先で洗濯をして、1回100kshからで、半日洗濯をして400kshくらいになるという。 キベラでは、都市化と居住の問題に取り組む国連機関である国連ハビタットUN-Habitat(国際連合人間居住計画)とケニア政府によってスラムの住民をスラム外の新住居に移住させて、スラム街を解消させる計画が実行されている。実際には身分証明書をもっているものだけが新住居に入居できるため、貧困でまともに病院で生まれなかった人、とくに女性はそのような身分証明書をもっておらず、スラムから閉め出されて、住まいを失っているのが現状である。

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