日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 1012
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要旨
都市緑地における地温変化と土壌呼吸の特徴
*宮島 聖也渡邊 眞紀子村田 智吉
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抄録

都市域の拡大に伴い都市緑地の面積も拡大している.都市域に存在する緑には都市域の環境保全,レクリエーション,防災,景観構成,生態系の保全など多様な役割が求められている.中でも地球温暖化への関心が高まるに伴い,都市緑地の都市域への炭素循環に対する貢献が注目されている.都市緑地を支える基盤となる土壌は陸域で最も多くの炭素を貯留する一方で土壌呼吸によって放出される二酸化炭素は,炭素循環における2番目に大きな放出源となっている.都市の土壌は人間活動による攪乱や改変を受けることで独特の土壌生態系をもたらしている.土壌に対する人間活動は,土壌呼吸量に大きな影響を及ぼす地温変化をはじめとする熱的特性に対しても自然土壌とは異なる影響を及ぼしている可能性が考えられる.そこで,本研究では東京都内の大規模緑地を対象に土壌への人為影響に着目し,地温変化をはじめとする熱的特性を明らかにし,地温変化に大きな影響を受ける土壌呼吸量の観測を通じ生物性の面からも都市土壌の持つ特性を考察することを目的とした.都市土壌における地温変化の特性を把握するために,地温及び土壌水分量の観測を東京都新宿区の国民公園新宿御苑内の林地2か所で2015年2月から12月にかけて継続して行った.両地点ともに植生は落葉樹と常緑樹の雑木林であるが,土壌の特性が異なっており,圧密による硬度の増加,高pH,低い有機物量といった都市土壌の特徴を持つ地点,もう一方は土壌硬度が低く人為影響が少ないと推測される地点である.また,地温観測を行った2地点で2015年8月から12月にかけて計7回ずつ土壌からのCO2フラックスの測定を行い,土壌呼吸量の大きさを評価した. 両地点の日平均地温を比較した結果,10cm深よりも浅部では地温の季節変化は類似した傾向を示しており,大きな差は生じていなかった.しかし,30cm深よりも深部では圧密による硬度の増加が確認された地点では冬季はより低温に,夏季にはより高温になる傾向があり,季節変化に伴う地温変化の影響を強く受けていることが示唆された.地温の日変化の観測結果から土壌中の熱の伝わりやすさを表す熱特性値である熱伝導率を計算した結果,圧密を受けた土壌硬度の高い地点では0.24-1.14Wm-1K-1,土壌硬度の低い地点では0.02-0.44 Wm-1K-1と土壌硬度の高い地点では大きな値を示し,この熱特性の違いが深部における地温差に影響を及ぼしていることが示唆された.熱伝導率は固相>液相>気層の順に小さくなる.高い土壌硬度を持つ地点では観測期間の気層が0.3-0.5m3m-3,土壌硬度が低い地点では0.6-0.7 m3m-3であり,圧密によって土壌中の孔隙が破壊され,気層の割合が減少することで,地温変化の影響がより深部まで及ぶことが都市土壌の地温変化の特徴として示された. 土壌呼吸量は人為影響を受けていた地点の平均が404.2 mgCO2m-2h-1,人為影響が弱いと推測された地点で189.8 mgCO2m-2h-1であり,人為影響の強い地点で土壌呼吸量は大きくなっていた.人為影響を強く受けた地点では有機物量が少なく,圧密により堅密な土壌が形成されていたことから生物性が乏しくなり土壌呼吸量は減少することが推測されたが,そういった傾向は示されなかった.その理由として観測を行った8月以降は高い土壌硬度を持つ人為影響の強い地点で30cm深よりも深部で地温が高い時期であり,ヒステリシス効果によって土壌深部の生物活動が活発化することに起因していると推測された.   都市緑地の土壌では造成の影響により,地温変化の影響をより深部まで受けることが推測される.その結果,夏以降の土壌深部の地温が高くなることによる影響で土壌中の微生物活動が活発化し土壌呼吸量が大きくなる特徴を有することが考えられた.本研究では土壌呼吸に関しては瞬間的な値の評価しか行っていないため,継続的な観測を行う必要があるが,微生物活動が活発化することによって,土壌中の分解も促進されることが示唆された.

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