日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 924
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要旨
「高校生がGISを操作しながら学習する授業」における一考察
GISソフトウエアを使った地理の自由研究の効果
*小林 岳人
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抄録
  学校教育、特に地理教育におけるGISの導入については、1990年代以降議論され、日本地理学会、地理情報システム学会、日本地図学会などの関連学会におけるシンポジウムなどがたびたび開催されている。次回学習指導要領における高等学校地理必修化の見込みなかでの、地理教育の一つの柱としてその期待は大きい。ハード面ソフト面の課題も多いが、特に、GIS導入初期のころに提示された「生徒自身が資料の収集→集計・整理→計算・加工・分析→地図化表現→解釈・考察といったGISの一連の作業行うことによって地理的な見方・考え方が得られる」という教育的な意義(井田 2000)は魅力的である。この形式は、日本学術会議地理教育委員会による「高校生がGISを操作しながら学習する授業形態」では、D段階(GISスキルレベル4)に位置づけられる。ArcGISについての実践事例はESRIジャパン社の「小中高教育における GIS 利用支援プログラム」によるものには一覧が示されているが事例はクラブ活動や課外活動でのものが中心であり、それほど多くの実践はされていない。地理の授業で、生徒の個々の自由な発想のもと研究テーマを設定し、GISソフトウエアを利用することが望まれる。本研究では(1)どのようにしてこの授業を創ったか。(2)生徒がGISソフトウエアを活用する中でどのような地理的技能が見られたか。(3)生徒の考察の中で地理的な見方・考え方がどのようになされたか。の3点について述べる。
まず、授業実践過程についてである。筆者の勤務校で学校開設科目「地理研究」は地歴科において「世界史研究」「日本史研究」と並び、3年次において各科目をより深く学びたい生徒が受講する科目として位置付けられている。「地理研究」では研究発表形式の授業を行い、外部を含めた発表を目標としている。2015年度は選択者5名で、年間を通じてコンピュータ教室で授業を行った。また、2015年度は、ESRIジャパン社による「小中高教育におけるGIS利用支援プログラム」にてArcGISを提供していただいた。授業スケジュールは、4月は世界遺産をテーマにプレゼンテーションの学習、5月は関数・数式・表作成・グラフ作成など地理的事象を例として表計算ソフトウエアの学習、6・7月はESRI社の「Mapping Our
World Using GIS: Level 2 (Our World GIS Education) 」をテキストとした学習、9月以降は、ArcGISを利用しての地図作成などを伴った自由研究とし、11月に千葉県高等学校教育研究会地理部会生徒地理研究発表大会にて発表を行い、12月・1月は、数ページの文章を加えて地図やグラフなどとともに、レポートとしてまとめた、さらにその後に、外部での発表(千葉地理学会)も行った生徒もいた。
次に、生徒はどのようにArcGISを利用したかである。GISによる「資料の収集→集計・整理→計算・加工・分析→地図化表現→解釈・考察」といった一連の作業は地理的技能と整合性がある。生徒は主に事象についての空間構造を表現する主題図の作成を行った。生徒が行った主題図作成については、生徒ごとでテーマが異なってはいたが、ある程度、類似のパターンに収めることが可能であった。対象範囲は日本全国か千葉県および身の回りの地域で、地図表現方法は統計単位地区ごとの図形表現図か階級区分図(コロプレスマップ)もしくは、ポイント(ドット)である。これらの地図作成には住所からアドレスマッチングサービスで得た位置情報を利用して表現するかダウンロードしたデータに属性を付加するかという方法のいずれかで行った。
そして、この一連の作業のなかでなされた生徒の考察と地理的な見方・考え方との関係についである。生徒は主題図を作成していきながら、その地図から可能な考察を行うことで研究を進めていった。その過程は大きく二段階に分けられ、まず「全体的な分布の傾向・立地理由・地域差」などについての考察を行い、その次に「比較検討・因果探究(事象、スケール、変化)」などについての考察を行っていた。これは、地理的な見方・考え方との整合性があると考えられる。つまり、学習指導要領にて説明されている「地理的な見方・考え方」の基本にあたり、後者は「地理的な考え方」を構成する主要な柱にあたる。そして、これは繰り返され深化していく。地理的技能が地理的な見方・考え方を導き、そして次の地図作成などのアイディアに基づいて地理的技能が働き、ここから地理的な見方・考え方が導き出されていく。
この授業形式はアクティブラーニングとしての意義も大きい。今後の課題は、このような授業実践が広く実践が行われるように、事例を積み, 効果を含めた検証をさらに進めることが必要である。
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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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