日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 619
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要旨
北京市場における日本醤油の販売品目と流通
*董 喆高柳 長直
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抄録





Ⅰ.研究背景と目的

日本では,「攻めの農林水産業」政策の一つとして,農産物や食品の積極的な輸出振興を図っている。輸出を拡大していくためには,食べ方としての日本食を外国に提案していくことが,重要な戦略として考えられる。日本食に欠かせないアイテムの一つが醤油である。しかしながら,近年,少子・高齢化、食の洋風化などの影響によって国内の醤油消費量は減少傾向をみせている。日本の醤油メーカーには海外市場の開拓が求められている。

海外市場として最も有望なのが中国である。日本の食品メーカーや小売業などは,こぞって中国に進出してきた。しかしながら,多くの課題もみられ,中国をターゲットとする,日本の農産物・食品の流通や販売に関する研究で明らかにされてきた。2000年代では,日本企業が中国進出する際の物流面や販売面での課題が指摘されてきた(依田,2004)。(下渡,2004)(成田,2010)は日本食品の中国市場での販売について,マーケティングの重要性が明らかにされてきた。一方,経済はグローバル化しているが,市場は必ずしも世界で一つではない。ローカルな市場にはそれぞれコンテキストが存在し,それを踏まえたマーケティングを行う必要がある(川端,2006)。日本国内での成功経験が必ずしも外国で生かされるとは限らず,むしろそれにとらわれて,外国の市場から撤退を余儀なくされる企業は少なくない。

そこで,本報告では販売される商品に着目し,実際にどのような商品が中国市場で受容され、流通しているのかということについて,日本醤油を事例に明らかにすることを目的とする。

Ⅱ.調査対象と調査方法

調査対象のAスーパーは2010年に北京にオープンした日本の最大手小売業の食品スーパーである。Aスーパーは北京市内日系小売店の中で日本からの輸入食品の販売量が最も多いところである。

調査方法は2013年3月、2014年5月と2015年2月にヒアリング調査とデータの収集を実施した。そこにおいて,2010年から2015年にかけての日本醤油の売り上げデータの個票と卸売業者のリストを入手した。日本醤油の販売品目、販売額と販売量を集計して分析を行った。中国の消費者の嗜好を明らかにすることは,日本の食品企業が中国市場に進出する上で重要な足がかりとなる。

なお,本報告で用いる日本醤油とは,日本企業のブランドを冠した日本風味の醤油で,製造場所は日本国内および外国の両者を含むものとする。

Ⅲ.結果と考察

中国市場における日本醤油の販売状況について以下の点を解明した。

まず,小瓶商品の販売量と品目数は大瓶より多い,刺身用が最も好調とみられる。次に,大瓶商品はPB商品の売上が多いという特徴がみられた。また,売れている商品はナショナルブランドというよりは「丸天」と「盛田」といったローカルメーカーのブランドである。「盛田」の中国工場で生産した商品も同じく中国の消費者に「日本商品」として認められる。

前述の様な実態であるからこそ,日本の商品は中国の商品と差別化を強調し,「日本商品」であることはアピールしながら,価格の値頃感を出したことが,ヒット商品につながったと考えられる。

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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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