抄録
2011年3月11日の東日本大震災の地震や津波による農地への被害だけでなく、福島第一原子力発電所事故による風評被害や作付け制限により、非耕作地が拡大することが予想される。本研究は、福島県第一原発から半径40km圏内の警戒区域外(南相馬市)における非耕作地の実態を把握して、被災者の営農再開を支援することを目的とする。2014年8月24日から8月26日、2015年9月9日から9月11日の期間に、福島県南相馬市の非耕作農地で現地調査を行い、農地土壌のサンプル48地点を採取した。採取した農地土壌(48地点)の放射性物質濃度をLB-200(ベルトールド社)の放射線測定器で測定し、非耕作地における土壌の放射性物質濃度分布を作成した。稲の作付け制限に関する指標は、水田の土壌中放射性セシウム濃度の上限値が5000 Bq/kgとなっており、2014年時には福島第一原発から20 km圏内の東向き丘陵地急斜面で14038 Bq/kg,8188 Bq/kg,6849 Bq/kgと高濃度の農地土壌放射性物質が検出された。2012年と2013年の調査で5000 Bq/kgを超える農地土壌の放射性物質濃度が検出された地域の多くは、2014年8月から除染活動が活発化したため、2014 年の調査時には多くの農地土壌の放射性物質濃度は減少し、1000 Bq/kg以下の農地土壌の放射性物質濃度が検出されていることを把握した。また、2014年8月から農地の除染事業が活発化したが、2015年時には福島第一原発から20 km圏内の東向き丘陵地急斜面で10173 Bq/kg、8179 Bq/kg、5840 Bq/kgと現在も高濃度の農地土壌放射性物質が検出された。南相馬市では、2014年より本格的なコメの作付けが再開されたが、営農再開した作付面積は震災前のわずか2 %にとどまり、2015年度の作付面積は震災前の約10 %である。その原因は、2013年に終了予定だった除染作業計画期間が延長されたことや福島第一原発事故の休作賠償によるもので、今後も現地での状況把握が必要である。