日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 811
会議情報

要旨
渡良瀬川支流を例にした砂礫にはたらく破砕・摩耗作用の解明
-岩種組成と粒子形状の変化に注目して-
*宇津川 喬子白井 正明
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

I はじめに
河川の砂礫は運搬される過程で破砕・摩耗し,粒径を減ずるとともに新たな粒子を生産している.この「生産作用」は「分級作用」と共に,上流から下流にかけて細粒化傾向を示す砂礫の分布に寄与すると考えられているが,両作用の卓越条件等はまだ明らかとなっていない.本研究では生産作用のはたらきに焦点をあて,『礫』および礫から生産されているであろう『砂』両者を分析対象として幅広い粒度でその特徴を調べた.具体的には,岩質(硬度差)と粒径を揃え,岩種組成(量比)および粒子の形状(円磨度)の下流方向への変化に注目した.  

II 研究手法
足尾山地を水源とし,河川・地質条件の似た渡良瀬川の2支流(桐生川・秋山川)において,それぞれ上流側・下流側の2地点を設定し,中礫~粗粒砂(64~0.5 mm)の岩種組成および円磨度を粒度ごとに調べた.野外調査は増水の影響をより受けやすい礫洲の水際で実施した.調査I(岩種組成)では,1 m×1 m の区画内で無作為に抽出した70~100個の中礫(4~64 mm)を,調査II(円磨度)では,2 m×5 m の区画内で無作為に抽出したチャートおよび頁岩各100個の中礫を調べた.また,両調査で表面礫下から採取した細粒分を洗浄・有機物処理した後,細礫(2~4 mm)・極粗粒砂(1~2 mm)・粗粒砂(0.5~1 mm)に篩い分け,首都大学東京地理学教室が所有するデジタルマイクロスコープを用いて各粒度で岩種組成(200粒)と円磨度(チャート・頁岩各100粒)を調べた.円磨度の測定はどの粒度でもKrumbein(1941)の印象図を用い,岩種別・粒度ごとに平均値を算出した.また,上・下流地点間での平均値差についてt検定を行ない,有意差の有無から,粒子が「下流方向に角張る/丸くなる」または「変化しない」のかを判断した.  

III 結果・考察
比較的硬いチャートと軟らかい頁岩の量比(ch/sh)および円磨度の変化から,「礫の破砕→新しい粒子の生産」を捉えた. 中礫;チャート礫の供給がないにもかかわらず,ch/shが下流方向に増えていることから,頁岩礫は運搬過程で壊れていると考えられる.チャート礫も摩耗作用によって粒子が生産されている.細礫;ch/shが増加し,かつ角張ったチャート・頁岩粒子が増えていることから,中礫同様に生産作用が活発にはたらく粒径と考えられる.極粗粒砂;ch/shは増加するが細礫ほどの変化量はない.頁岩は下流方向に丸くなり,チャートも角張った粒子が多い一方で,破砕作用を受けたであろう粒子が少ないなど,摩耗作用が卓越し始める傾向が見られた.粗粒砂;ch/shが変化せず,チャート・頁岩どちらも下流へ丸くなることから,破砕作用よりも摩耗作用が卓越する粒度と考えられる. 加えて0.5~2 mmの粒子は破砕作用のはたらきが弱くなることから,分級作用が卓越し始める粒径である可能性がある.  

文献 Krumbein, K. C. 1941. Jour. Sed. Pet. 11 : 64–72.

著者関連情報
© 2016 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top