日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P035
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要旨
多摩川上流域における最終氷期以降の河床変動に関する再検討
*高橋 尚志須貝 俊彦
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抄録
はじめに
多摩川上流域に分布する河成段丘面は高木(1990)により形成過程が検討されているが,背後の緩斜面も含めて河成段丘と認定していることなどから,正確な本流位置を推定するためには,段丘構成堆積物のより詳細な検討が必要である.本報告では,多摩川上流域に分布する青柳面の露頭観察・地形測量,テフラの火山ガラスの主成分化学組成分析を行い,最終氷期以降の多摩川本流の河床高度変化について再検討を行う.

研究対象地域
多摩川は関東山地に端を発し,東京湾に注ぐ河川である.青梅より上流域には最終氷期以降に形成された河成段丘面群が峡谷に沿って分布する.本報告では,多摩川本流の小河内ダム~青梅市街地の区間に発達する河成段丘面群を対象とする.対象地域の基盤の岩質は,四万十帯および秩父帯小仏層群に属する付加体堆積岩類である.
高木(1990)は本地域の河成段丘面を上位から,青柳面,拝島面,天ヶ瀬面,千ヶ瀬面,低位段丘面に区分した.また,青柳面が厚い礫層を伴う堆積段丘面であり,その本流性礫層上部に箱根東京軽石(Hk-TP;65 ka;青木ほか, 2008)が挟在することから,海洋酸素同位体ステージ(以下,MIS)5.5に形成された河谷がMIS4頃までの期間に埋積されたと考えられている(高木, 1990).

青柳面構成層の記載
青柳面構成層は,多摩川河谷の幾つかの地点で観察され,軍畑よりも上流では厚い支流性角礫層に覆われている.①奥多摩町白丸では,標高326m付近を境に最大礫径約40cmの亜円~円礫層が堆積し,その直上を20m以上の厚さを持つ淘汰の悪い角~亜角礫層に覆う.この角礫層中には標高341mに黄褐色軽石が認められ,この火山ガラスの主成分化学組成はHk-TPとほぼ一致する.②奥多摩町川井では,標高271mに最大礫径約40cmの亜円~円礫層が認められ,20m以上の厚さの亜角礫層に覆われる.③青梅市沢井では円礫層は未確認で,複数の逆級化ユニットで構成される厚さ4m以上の角礫層が観察された.これを覆う角礫混じりローム層の下部には赤褐色軽石が散在している.この赤褐色軽石の火山ガラスの主成分化学組成は,八ヶ岳新期第4テフラ(Yt-Pm4;32ka;大石,2015)に対比される可能性が高い北本軽石(KMP;須貝ほか,2007)と一致する.

最終氷期中の河床高度と支流からの土砂供給
青柳面構成層中の円礫層は多摩川本流の堆積物と考えられるので,その上限高度は堆積段丘面形成当時の本流の河床高度を示す可能性が高い.この河床高度は,高木(1990)の示したそれよりも,①白丸で約35m,②川井で約20m低い.それぞれの青柳面構成層の露頭で得られた本流性の円礫層の高度をもとに河床縦断面形を描くと,高木(1990)の青柳面の縦断面形と異なり,現河床面と概ね平行な縦断面形を成す.  今回得られた青柳面の縦断面形から求められる,多摩川の最終氷期以降の平均下刻速度は2.8~4m/kyrである.この値は,他の関東山地の河川の上流域における平均下刻速度,すなわち,相模川(3.5~5m/kyr;相模原市地形地質調査会,1986),鏑川(3~5m/kyr;須貝,1996)と概ね一致する.  また,高木(1990)はHk-TPが青柳面構成層の本流性礫層上部から見出されることから,本流河谷の埋積はHk-TP降下時頃まで継続していたと考えた.しかし,①白丸においてHk-TPが本流性円礫層を覆う支流性角礫層中から見出されたことから,本流の河床上昇はMIS4以前に概ね終了し,Hk-TP降下時の多摩川上流域は,支流および谷壁からの堆積物が累積する環境であった可能性がある.また,③沢井ではKMPが支流性角礫層を覆う角礫混じりローム層中から見出されたことから,最終氷期中の支流および谷壁からの土砂の供給は,MIS3頃まで継続していたと推測される.

参考文献
青木ほか(2008)第四紀研究,47(6),391-407;大石(2015)火山,60(4),477-481;相模原市地形・地質調査会(1986)相模原の地形・地質調査報告書(第3報),96p;須貝(1996)日本第四紀学会講演要旨集,26,102-103;須貝ほか(2007)地学雑,116,3/4,394-409;高木(1990)第四紀研究,28(5),399-411.
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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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