日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S1301
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要旨
自然の生産と消費
「自然の地理学」の視点から
*中島 弘二
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抄録

英語圏の地理学においては1980年代後半より「自然の地理学geographies of nature」と呼ばれる一連の研究がおこなわれてきた(中島 2005,浅野・中島 2013)。それらに共通するのは、自然とは決して所与の本質ではなく社会的に生産されるものであると同時に、人間や他の人間以外のもの(non-humans)と同様にこの世界を構成するダイナミックで能動的な存在だという考え方である(e.g. Whatmore 2002, Castree 2005, Hinchliffe 2007)。例えば温暖化防止をめぐる温室効果ガスの排出量取引市場の形成や地域資源の発掘を通じたエコツーリズムの展開、環境運動における「守るべき自然」イメージの構築などに示されるように、現代における自然は社会的・文化的に生産され、そしてそれらの消費を通じて新たな経済活動や政策、社会運動が生み出されるような役割を果たしていると考えられる。このような問題を考えるうえで「自然の地理学」の議論は大変有効である。それは単に自然に対する構築主義的アプローチにとどまらず、社会そのものが自然の生産と消費を通じて構築/再構築される諸過程を明らかにしようとする社会批判の理論なのである。 本シンポジウムでは、「自然の審美学」、「自然の政治学」、「グローバル化と自然」という三つの視点から、このような自然と社会との再帰的な諸関係を明らかにする。そうした作業を通じて、「空間」や「場所」と同様に現代社会を批判的に読み解くための地理学的な知として「自然」を位置づけ直すことを試みる。

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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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