抄録
Ⅰ.はじめに
住民参加と地図作成に特徴づけられる市民参加型GIS(Public participation GIS)が社会的に広まっている。市民参加型GISは、地図作成を通して市民の情報共有を促進したり、GISによってまちづくりにおける意思決定プロセスを改善したりする効果が期待される。近年では発達した情報通信技術を用いることで、より多様な住民の参加機会を実現しているものの、参加住民の社会属性には偏りが生じることが多い。しかし、共有される情報が参加住民の社会属性や生活経験とどのような関係を持つのかに焦点を当てた研究は限られる。
以上の背景をもとに本研究では、千葉市役所の広報広聴課による市民協働で地域課題を解決する取り組み「ちば市民協働レポート(ちばレポ)」を基に、住民参加型ワークショップを行うことで、女性間の子育て期間の違いが着目する情報にどのような差異をもたらすのか明らかにする。
Ⅱ.研究方法
本研究の調査対象は千葉県千葉市緑区おゆみ野地区に在住の市民とし、調査方法はまち歩きと協議を取り入れたワークショップ及びアンケート調査とした。ワークショップは、9月19日、10月2日、10月11日の10:00~12:30で、3日間それぞれの属性集団に対して実施した。調査対象として就学児童の母親グループ、未就学児の母親グループ、自治会長のグループがそれぞれ6人ずつ参加した。ワークショップは、参加者が気になった道路が傷んでいる、公園の遊具が壊れているといった、地域住民にとって困ったインフラの課題をカメラで撮影し、筆者作成のまち歩きシートに内容を記入し、協議をした。
Ⅲ.結果
地図や投稿内容、協議を分析したところ、課題認識の差異があることが明らかとなった。
就学児童の母親グループは、公園や小川について課題であると認識し、駅前は魅力であると評価した。自転車と遊歩道の関係性に着目し、利便性と自転車環境に注目した。
未就学児の母親グループは、公園について課題であると認識し、駅前・小川について魅力であると評価した。自転車・ベビーカー・遊歩道・タイルの関係性に着目し、子どもを中心とした歩行環境に注目した。
自治会長のグループは、道路について課題であると認識し、相対的に課題認識が低い結果となった。遊歩道を中心に様々なものに着目し、景観と道路環境に注目した。
Ⅳ.考察
女性間の課題認識は、子育ての期間によって差異が生じていると考えられる。就学児童の母親グループは、未就学児の母親グループと比べ、子育て期間が長く、子どもの成長にしたがってより多くの地域の活動に参加し、地域の様々な課題に意識が向くようになったと考えられる。一方で、未就学児の母親グループは、未就学児を育てることが生活の中心となるために、ベビーカーによる歩行環境という視点からインフラ課題を認識しているといえる。自治会長グループが投稿した課題は、ちばレポで投稿が多かった課題と類似する一方、他の2つのグループの投稿課題はちばレポに共有されていない課題であることが分った。本研究で明らかとなったように子どもの成長によって母親の課題認識が異なる。こうした課題認識の差異と参加者の属性に留意して共有される情報を批判的に評価し、多様な住民参加を促進していくことが求められる。