日本地理学会発表要旨集
2016年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P097
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要旨
コンテンツを動機とした旅行行動に関する研究
中国人における「訪日ACG旅行」を事例に
*黄 晶晶
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抄録

1.はじめに

   近年、アニメ、コミック、ゲーム(以下ACGと称す)、映画、ドラマなどのコンテンツを動機とした旅行行動が多く見られる。日本国内の旅行行動はアニメを動機とした、アニメの舞台となった地域を探訪する「アニメ聖地巡礼」が挙げられる。国外から訪日旅行の場合、2009 年の中国映画『狙った恋の落とし方』の大ヒットにより、中国人観光客が大量に、映画の舞台となった日本の北海道道東地区に訪れた例が挙げられる。本稿では、コンテンツを動機とした、特に日本のACGを動機とした中国人の訪日旅行について、旅行者の旅行行動に着目して論じる。具体的には、日本のACGに強い興味を持ち、日本のACG関連商品の販売店やACG作品の「聖地巡礼」、また、ACGに関連するイベントの参加などを主な目的にし、日本を訪れる中国人ACG愛好者の具体例について分析する。本稿の「聖地巡礼」とはACG作品にまつわる「舞台探訪」であり、ファンが作品の背景となった場所を現実から見つけ出し、それらの場所を訪ねることである。さらに、日本のACGを動機とし、日本のACG関連商品の販売店を巡ること、ACG関連のライブや展示会などイベントの参加、またACG作品の「聖地巡礼」などを主な目的で日本を訪ねることを「訪日ACG旅行」として定義する。また、こういった旅行行動をおこなう、国籍は中国の旅行者を研究対象とし、彼らの訪日旅行行動について考察をおこない、「訪日ACG旅行者」と一般訪日旅行者、また、中国聖地巡礼者と日本聖地巡礼者の共通点や相違点を究明し、中国人ACG愛好者が日本における旅行行動の特徴を明らかにしたい。さらに、中国聖地巡礼者少量サンプルの実態考察に基づき、中国聖地巡礼者と日本聖地巡礼者の関係について一つの仮説を立てたい。

2.調査方法

  「訪日ACG旅行者」は団体旅行者と個人旅行者に分けられる。団体旅行者はパッケージツアーで訪日する旅行者であり、交通・宿泊・食事・訪問先などの旅程が部分的、または全部主催者側に決められ、旅程を選択する自由がある程度に規制されている。一方、「訪日ACG旅行」の個人旅行者については、旅程内の交通・宿泊・食事・訪問先などがすべて自ら選択できる旅行者を個人旅行者として定義する。調査方法として、「訪日ACG旅行」のパッケージツアーのパンフレットにより宣伝用語について分析し、「訪日ACG旅行」のパッケージツアーの参加者へのアンケート調査や聞き取り調査、ツアー主催者への聞き取り調査をおこなうとともに、インターネット上で「訪日ACG旅行」の経験者へのアンケート調査と聞き取り調査を行った。また、インターネット上の旅行記について考察した。

3.結果と考察  
   日本のACGを動機とした中国人の訪日旅行の特徴について、旅行行動に着目し、文献、アンケート、聞き取り、随行観察による調査結果を踏まえて考察を行った結果、中国人における「訪日ACG旅行」の特徴を1)「個人旅行」と「団体旅行」には、それぞれの違いがあり、また共通点もあること。2)インターネットの利用率が高く、特にSNSの利用がどのタイプの旅行にも見られること。3)中国の聖地巡礼者は「追随型聖地巡礼者」と「二次的聖地巡礼者」が多く、また、「アニメ聖地の写真や動画を、アニメに登場する風景比較ながら撮影すること」、「持ち運び可能な情報通信機器を用いて、聖地の様子を掲示板やブログ、動画サイトで公開すること」などの行動的特徴が見られること、以上の3点を提示した。さらに、中国人聖地巡礼者と日本国内の聖地巡礼者の関係について、訪日ACG旅行者の聖地巡礼経験の増加により、聖地巡礼に対する認識や態度、また行動には何らかの変化が起こり、意識的にまたは無意識的に日本国内の聖地巡礼者に近づくことを見られるようになると推測した。
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© 2016 公益社団法人 日本地理学会
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