抄録
かつて,扇状地では,多くの礫が石垣等に利用され,特徴的な景観が見られたことが知られている.現在でも,地形によって石利用の特徴が異なるか,大阪平野の周縁部に位置する扇状地とその周辺の低地,丘陵地において石垣の分布を調査することによって,検証した. 大阪平野の周縁部に位置する,北摂山地南麓,枚方丘陵西麓,生駒山地西麓を対象として,石垣の高さと石垣を構成する石の種類を調査した.対象地域の地形は,扇状地(1.3 km2),丘陵地(1.2 km2),低地(2.5 km2)で,大部分は住宅地として利用されている.対象とした石垣のほとんどは,住居の地盤や塀の土台としてつくられたものである.石垣の高さは, レーザー距離計で計測した.石の種類は,円礫,角礫,間知石,割石の4種類に区分した.円礫と角礫は自然石で,間知石と割石はどちらも整形されたものである.表面が一辺30 cm程度の長方形に整形されたものを間知石として,それ以外のものを割石とした. 調査対象地域には,1821と多数の石垣がみられた.扇状地には,659あったが,低地にも482あり,丘陵地にも680あった.したがって,石垣の有無だけでは扇状地を特徴づけることはできない.このため,石垣の高さと石の種類について,地形との関係を検討した. 石垣の高さは,地形と関係があり,低地,扇状地,丘陵地の順に高くなる傾向がある.調査対象地域全域で見ると,低地では,高さが2 m以上の石垣は,低地全体の0.4%とほとんどみられない.これに対して,扇状地では,それは5.2%あり,丘陵地では15.7%を占める.また,高さが3 m以上の石垣は,低地および扇状地では,それぞれ,0.2%,0.5%と,ほとんどみられないのに対して,丘陵地では,5.4%ある. 以上のような石垣の高さと地形との関係は,傾斜の違いに起因していると考えられる.低地はほとんど平坦であるのに対して,扇状地および丘陵地では数度程度の傾斜があり,丘陵地の方がより急な傾斜地を含んでいる.傾斜が急であるほど,平坦地をつくるための石垣は高くなるため,高い石垣は丘陵地に多く,低地にはほとんどないのであろう. 石垣を構成する石の種類は,地形によっても異なるが,地域差も大きい.地形による違いを見ると,扇状地と丘陵地とでは,ある程度異なる.扇状地では,角礫の石垣は,全体の85%を占めるのに対して,丘陵地では,38%に過ぎない.一方,間知石は,扇状地では4%に過ぎないのに対して,丘陵地では,24%を占める.これは,間知石が,高い石垣に,よく用いられていることを反映したものと考えられる. 石の種類の地域差を見ると,北摂山地南麓では,円礫が,低地でも扇状地でも丘陵地でも14%以上を占めるのに対して,他の地域では,いずれの地形においても,1%以下と,ほとんどみられなかった.また,間知石は,枚方丘陵西麓では,丘陵地でも低地でも,26%以上を占めるのに対して,他地域では,いずれの地形でも3~9%である.以上から,石の種類の分布には,このような地域差をもたらす,地形以外の要因もあると思われる.