日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 308
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発表要旨
大阪都市圏北部における病床へのアクセシビリティの将来推計
*谷本 涼
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抄録
深刻な財政悪化の中で高齢化と人口減少局面を迎えた日本では,それらの諸課題に対処するために,人口推計などの手段を用いて,将来の地域の見通しや目指すべき姿を描くことが重要である。特に,人々の生活の質を構成する重要な一要素であるアクセシビリティの将来推計を通して,将来の地域の様相を総合的に,かつより正確に検討する必要がある。これは過疎地域だけの問題ではなく,近年では大都市においても,特に医療・介護サービスへのアクセシビリティの改善に向けた活発な政策的議論が展開されている。しかし,アクセシビリティに関する多くの既往研究は,人口構造の変化や諸政策の実施などによる,アクセシビリティの将来的な変容の具体的分析には至っていない。 そこで本報告では,GISと二段階需給圏浮動分析法(two-step floating catchment area method)によるアクセシビリティ分析と,都市政策の事例の検討を通じて,大阪都市圏北部における病床へのアクセシビリティの変容やその問題点を考察する。具体的には,2010年・2025年人口と,病床供給や交通体系に関するシナリオを想定し,病床や,その不足を補完するものとしての介護施設への,需給バランスを考慮したアクセシビリティを推計する。次に,アクセシビリティの向上を意図した都市政策の事例(大阪府箕面市の立地適正化計画)を紹介し,本政策の妥当性と課題を,アクセシビリティの推計結果を用いて考察する。その知見は,以下のように要約される。
(1) 現状の病床へのアクセシビリティには,供給総量の不足と,移動手段間・地域間での格差という二つの問題が存在する。
(2) 公共交通の改善と病床機能別の病床数調整を想定した2025年のアクセシビリティの将来推計から,「不足と格差」の現実的な解決には,地域の既存の資源を効率的に活用するための,多面的なアプローチが必要になると考えられる。加えて,国と都道府県の医療政策による入院患者の削減には,受け皿としての介護施設の容量が大きな問題になる可能性がある。
(3) 医療・介護へのアクセシビリティの確保には,各自治体の都市計画と専門的・広域的な医療・保健政策の連携の実現と,各自治体による自らの都市計画の妥当性の柔軟かつ批判的な検討が必要であると考えられる。
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© 2017 公益社団法人 日本地理学会
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