日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 201
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発表要旨
和歌山県および香川県における国際観光の動向と展望
*北田 晃司
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抄録
近年、わが国を訪問する外国人観光客の数は急増している。特に2007年から2015年にかけては西日本の諸県において大きい。本発表においてはこのうち、近年の外国人観光客の延べ宿泊者数の増加率では全国でも有数の和歌山県と香川県を選び、外国人観光客の動向やその背景などについて分析する。まず和歌山県については観光客の国籍により訪問する観光地に大きな差が見られる。その中でも高野山は特に欧米からの観光客に人気があり、熊野本宮温泉郷でもアジアからの観光客を圧倒している。さらに欧米の観光客が和歌山県で行うショッピングで使用する金額も中国人観光客を上回っている。これに対してアジアからの観光客は宿泊客数では中国人観光客が最も多いが、その多くは関西空港に近いことや、近年、外国人観光客の増加のために宿泊の難しい大阪市を避けて和歌山市に 宿泊するためだけの目的で同市を訪問することも多い。また台湾や香港からの観光客も多いが、特に台湾人観光客にとってh和歌山県は必ずしも人気のある観光地ではなく、USJや京都などを訪問するついでに訪問する観光客が多い。しかし、猫の駅長で有名になった和歌山電鉄、春の桜や梅の花見などは一定の人気を得ている。また、和歌山県の国際観光をさらに活性化するためには、同県が日本有数の生産を誇るみかん、梅、柿、桃などの果物や、近年知名度が上昇しているマグロ、クエなどを使った日本料理をの紹介なども重要であると考えられる。一方、香川県における外国人観光客の宿泊者数の大半は台湾人によってもたらされた。特に栗林公園、金毘羅宮などの観光地と名物の讃岐うどんの人気が高い。かつて四国で最も多い外国人観光客は韓国人観光客であったが、2007年から2015年の間に台湾人観光客に首位の座を譲ることになった。台湾人観光客の急増の背景としては、遍路に象徴されるような、特に江戸時代以降現在に至るまで盛んな日本人の信仰への関心の高まり、香川県のみならず、しまなみ海道や厳島神社など、瀬戸内海に分布する観光地への関心の高まりを反映したものと考えられる。しかしその一方では、松山空港に発着する国際便数の減少など、国際観光をめぐる都道府県間の競争の激化も見られる。以上のように、今後の国際観光、特に地方における国際観光においては、食事や宗教活動といった日本の日常的な姿への関心の増大、その一方での外国人観光客の嗜好の多様化、和歌山県における中国人観光客の例が示すように、宿泊のみを目的とした訪問の増加、地方の国際観光をめぐる都道府県間の競争の激化など、これまで以上に多くの問題が錯綜することが予想され、特に県を超えたより広い範囲における都道府県間の利害の調整などがより重要になると考えられる。
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