抄録
本研究では,旧自治省(現総務省)の施策によって設定された広域市町村圏を日常生活圏とみなし,これと市町村合併との一致度合を指標化し、日本地図上にプロットする。そしてそこから読み取れる「平成の大合併」の地域的特徴と予想される課題について考察する。広域市町村圏は,中心の都市的市・町と周辺の農村的市町村を1つの単位とする圏域であり,広域行政の充実を目的として,1969年より道府県と市町村との協議により順次定められた。「平成の大合併」直前の1998年10月時点では,全国で331を数える。
本研究では,市町村減少率と中心地合併寄与率という2つの指標を広域市町村圏ごとに算出している。市町村減少率は,広域市町村圏内の市町村数が「平成の大合併」を通じてどれだけ減ったかを表し,中心地合併寄与率は,どのくらいの割合の周辺市町村が中心市町村との合併を選んだのかを表している。この2指標を日本地図上に描くことで,広域市町村圏と市町村合併の一致状況の地域差を示すことができる。
2指標を地図化し,観察した結果は,次の3点にまとめられる。①北海道・東北地方の広域市町村圏は低い市町村減少率を示す傾向にあり,これは他の地域より合併が少ないことを意味する。これはおそらくこの地域の広域市町村圏が他の地域のものより面積が広いためである。②県境にある広域市町村圏は高い市町村減少率と中心地合併寄与率を示す傾向にあり,これは市町村区域が広域市町村圏に一致する傾向が強いことを意味する。これらの圏域では,地域の衰退に対抗するために中心地域と周辺地域の協力が必要とされており,このことが合併を促すとともに,合併後の市町村運営の課題ともなっている。③東京・大阪大都市圏の外縁や,石川県,愛媛県,高知県における広域市町村圏は,低い中心地合併寄与率を示す傾向にある。これは,中心市町村と周辺市町村の関係性が弱く,広域市町村圏およびそれに基づく地域枠組みがもはや現状を反映していないことを意味する。こうした地域では,広域市町村圏に代わる新たな日常生活圏の設定が必要となる。