抄録
はじめに
地域との共存共栄を志向する企業(地域中核企業)が持続的に地域とともに存続していくためにはどうすれば良いのであろうか。我々は、地域社会の中に存在していること自体を自己の競争優位性としていくことが一つ答えになると考え、企業が持つ独自技術と地域社会に存在する資源を活用した製品開発に取り組んできている。本発表では、高知県安芸地方で古くから生産され、現在もその地域の主要農産物である「柚子」の低利用資源である果皮を原料にした香料である「柚子オイル」の事業化に至る過程について報告する。今回紹介する実例は地域中核企業をコアにした新たな産業創出モデルになる可能性が高いと考えている。
高知県安芸地域
高知県安芸地域は温暖な気候条件を生かした施設園芸の先進地域であるが、地理的不利益性から後発地域との競合が厳しくなってきている。そのため、この地域では、古くからの主要農産物である「柚子」の加工に活路を求めた。我々がこの取組みに関わりだした当時(H21)の高知県での柚子の生産量は約8.5千トンで、土佐あき農協と馬路村農協とがそれぞれ4千トン強を生産していた。それぞれの地域には様々な整備事業によって搾汁施設等が整備され、土佐あき農協管轄地区は高度に品質管理された果汁を大企業に安定供給することで、また馬路村農協管轄地区は柚子をキーアイテムとした観光事業で、地域振興の成功事例となっていた。しかし、両地区とも搾汁後の果皮が活用されずに廃棄されているのが実情であった。
地域産業振興の現状
多くの自治体での地域産業振興の柱は大企業の工場誘致政策である。大規模工場等の誘致が成功すれば、その地域に新たに雇用が創出され、税収の増加などの効果が期待される。シャープの工場を誘致した三重県のケースはその一例である。しかし、リーマンショックに伴う世界的景気低迷の影響を受け、シャープ本体の業績不振のため別会社化が検討されるに至っている。これは、大企業を取り巻く経済環境の変化によって、自治体・地域の事情よりも、企業の事業戦略が優先される事例である。即ち、工場等の誘致によって一時的に地域の活性化が図られたとしても、それが継続するとは限らない。このような課題を内在するとはいえ、大都市圏に隣接しすでに多くの企業が進出している地域においては、比較的負担の少ない形での誘致が行えることから有効な地域産業振興手法といえる。では、大都市圏から離れた地域における産業振興・地域活性化はどのような対応が考えられるのか。
地域中核企業をコアにした地域振興について
現在、我が国には「地方創生(地域の再生)」をどのように図っていくのかという国家的課題が眼前にあり、そのカギの一つは産学官連携と考えられている。経産省は地域資源を活用した新事業創出への支援を強化するとともに、2008年に「農商工等連携促進法」を制定し、農商工連携を「企業立地促進法」に加える改正を行い、また「地域イノベーション創出共同体」形成事業を開始した。さらに、文科省と連携し、「産学官連携拠点」の形成を柱とした政策も展開している。主要ターゲットとしては、大都市圏から離れた地域の主要産業である農林水産業およびその加工を手掛ける中小の食品産業をあげることができる。そのような地域の農林水産・食品産業の成長産業化を図るためには、分野にこだわらない連携を含めた革新的な発想を導入するとともに、市場ニーズを踏まえた商品化・事業化を、スピード感をもって実現する革新的な取組が必要である。そのためには、異分野との新たな連携を含めて、知識・技術・アイデアを集積させ、革新的な研究成果を創出し商品化・事業化に導く新たな仕組みづくりのための研究・モデル化が必要である。
まとめ
総体的に、地域経済を支えてきた中核企業にとって、地域社会における企業としての役割を改めて見つめ直す時期にある。事業活動で得られた技術・ノウハウ・経験を自社と地域の発展にどのように生かせるのか。今回、事例とした「柚子オイル」
の特記事項として、高知県安芸地域の特産品である柚子の加工工程で大量に産出される低利用資源の搾汁残渣である果皮を活用した点があげられる。辻製油㈱は、工業規模でのヘキサン抽出技術を確立し、その技術を地域の未利用資源に生かすことを一つの事業として位置づけ「柚子オイル」の製造・販売を行うことで、「三方よし」の関係を構築し、地域振興に結び付けることができた。