抄録
1.はじめに
人口地理学において人口移動と結婚・出生行動に関する研究は、これまで独立したものとして実施されることが多かった。しかし、人口移動と結婚・出生行動が相互に関連したイベントであることを踏まえると、両者の関係解明は重要な研究課題といえよう。
人口移動と結婚・出生行動の関係を解明する上ではライフコースの視点が有用である。そこで本報告では、人々のライフコースの軌跡を記述する方法として近年注目されている系列分析を用いて、人口移動と結婚・出生行動のイベント発生を状態系列とみなした系列データを作成し、人口学的属性によるライフコースパターンの分類を行った。本報告の成果は、今後の更なる分析にむけた実態把握としての意義をもつ。
2.データと分析手法
分析に用いるデータは、国立社会保障・人口問題研究所が実施している「人口移動調査」の第5回(2001年実施)と第7回(2011年実施)の調査から得られた個票である。同調査は全国の国勢調査区から無作為抽出された300調査区に居住する世帯の全世帯員の人口移動について調査したものであり、本報告ではこのうちの世帯主とその配偶者についての個票(全20,033ケース)を分析対象とした。本分析で観察するライフコースの範囲は15歳から39歳である。人口移動については都道府県を単位として設定した大都市圏と非大都市圏の間での人口移動、結婚・出生行動については初婚から第3子出生までを分析の対象とした。系列データの作成に際して個票データから得られる個人ごとのイベント発生の有無と、発生時の年齢を用いた。
分析手法である回帰木は決定木の一つであり線形回帰モデルにおける寄与(R二乗値)の高い属性から順に分類を行う手法である。系列分析ではライフコースの多様性を示す指標としてエントロピーインデックスが用いられる。本研究では同指標を従属変数とした回帰木を作成した。分析モデルは男女別に(1)人口移動、(2)結婚・出生行動、 (3)人口移動と結婚・出生行動について出生年、配偶関係、学歴、移動類型等の属性を用いて分析を行った。
3.分析結果の概要
(1)人口移動についての回帰木の結果からは、人口移動の発生に最も影響を持つのは男女ともに出生地が大都市圏かどうかであり、次に学卒・初職のタイミングで大都市圏に移動するかどうかであった。
(2)結婚・出生行動についての回帰木の結果からは、男性は1950~60年生まれ以降、女性は1970年代生まれ以降で晩婚・晩産化が進み、特に第三子を持つ割合が低下している。また男女ともに学歴が高くなるほど晩婚傾向を示す。女性の場合、東日本居住であると西日本居住に比べて第3子を持つ割合が低いことがわかった。
(3)人口移動と結婚・出生行動についての回帰木の結果からは、非大都市圏から大都市圏へ移動した群が最も晩婚化・晩産化が進行していること、大都市圏から非大都市圏へ移動した場合は逆に早婚・第三子割合が高く、出生地と人口移動の発生と方向(大都市圏⇔非大都市圏)によってその影響が異なることが明らかとなった。
付記:本研究は平成28年度一般会計プロジェクト「地域別将来人口推計」に基づいて「人口移動調査(社会保障・人口問題基本調査)」の貸し出しを受け分析を行いました。