抄録
1.はじめに
制度上では単純労働を目的とする外国人の就労目的での入国を認めない日本において、技能実習生がサイドドアとして受け入れられ、その数が年々増加している。日本における外国人労働者に関する研究の中で、彼らの就労、生活、ホスト社会との関係などが議論されている一方、送り出し国・地域の諸主体が彼らにいかなる影響を与えているかの解明を試みたものは少ない。特に技能実習生の場合は、一般的な移民労働者と異なり、送出国側の送り出し機関を経由し来日する。送り出し機関は技能実習生に対する来日前の教育・指導の機能を果たしており、技能実習生の来日後の就労、生活、ホスト社会との関係に大きな影響を与えている。
本報告では、主たる労務輸出地域の送り出し機関に注目し、それらの機関がどのような戦略を採って、技能実習生を募集し、教育訓練を行い、日本側の受け入れ監理団体と関係を構築しているのかを分析する。さらに、技能実習生の基本属性や渡航目的などを把握した上で、送り出し機関がいかに技能実習生の来日後の就労や生活、特にホスト社会への接触に制約と可能性を与えているのかを明らかにする。
2.研究対象地域と方法
具体的な検討の対象地域として、中国山東省青島市を取り上げる。山東省は中国で最も外国に労働者を送り出している地域である。さらに、その中心となる青島市は外国に労働者を送り出す「送り出し機関」33社が存在し、そのうち、16社が実際に日本に技能実習生を送り出していることから、青島市は研究対象地域にふさわしいといえよう。
研究目的を達成するために、報告者はヒアリング調査とアンケート調査を実施した。具体的には、2016年8月から10月に技能実習生送り出し機関の8社にヒアリング調査を実施した。さらに、来日前の技能実習生の基本属性、来日後の就労・生活・ホスト社会との接触に関する意識を把握するために、8社のうち、5社に在籍している技能実習生274人に対してアンケート調査を実施した。そのほか、青島市の技能実習生送り出し業務を管轄する青島市商務局にもヒアリング調査を実施した。
3.研究結果
送り出し機関が行う来日前の技能実習生への教育・訓練では、(1)教育・訓練センターの有無、(2)日本語教育にかける時間の長さ、(3)日本語教師陣の能力などが技能実習生の日本語学習に影響を与えていることがわかった。また、大半の送り出し機関は、ホスト社会との接触を希望する技能実習生に理解を示し、受け入れ団体・企業と積極的に交渉し、ホスト社会との接触の拡大を探る姿勢をみせた。他方、日本語教育が充実していない送り出し機関の一部は、契約している受け入れ団体の一部が技能実習生に制約を与えていることを知っていながらも、十分な説明がなされないまま、技能実習生を送り続けている。なお、具体的な制約と可能性の詳細は発表時に報告する。
また、中国国内賃金の上昇・円安・日中関係の悪化などの要因で技能実習生候補者の募集が難しくなったため、送り出し機関は経営の安定を図るために、募集範囲を地理的に拡大させたり、技能実習生とホスト社会の接触の拡大を試みている。その背景として、中国の労働者送り出し業務が、国家政策の一部でありながらも、利益を求める性格を強めていることが挙げられる。地方政府が送り出し機関に対し、日本への技能実習生派遣以外の多元的な送り出し戦略を要求する傾向を強めている。以上から、今後も送り出し機関の戦略が日本への技能実習生派遣に強く影響を与えることが予想される。