抄録
1 はじめに
2016年3月に国土地理院から「UAVを用いた公共測量マニュアル(案)」が発表され,UAV-SfM手法を用いた空中写真測量は研究・実験段階から測量の現場で使用する方法の1つとして急速に広がりを見せている。
積雪深の分布の把握を目的に,無雪期と積雪期にそれぞれUAV-SfM手法を用いてDSMを作成し,積雪深を求めて実測値と比較した例は,日本国内では内山ほか(2014, 雪氷研究大会講演要旨集)や小花和ほか(2015, 「CSIS DAYS 2015」研究アブストラクト集)がある。しかし,事例数が十分でないため,筆者らは2016年の融雪期を対象に日本有数の豪雪地帯である新潟県巻機山麓において研究を行い,松山ほか(2016, 日本地理学会秋季学術大会発表要旨集)として発表した。だが,この年は記録的な寡雪だったため,更なる研究の必要性が確認された。
そこで本研究では,2017年の積雪期に新たなデータを取得し解析すると共に,過去のデータと比較を行った。融雪期における積雪深の分布が分かれば,流域の積雪水資源量を精度よく推定できることが期待される。
2 データおよび解析手法
対象地は,巻機山麓の標高600m地点で,2015年8月1日(K&S社 K4-R, RICOH社GR)と2016年3月21日(DJI社Phantom2, RICOH社GR)と2017年3月20日(DJI社Phantom3 Professional, 標準搭載カメラ)に空撮を行った。()内は,使用したUAVとカメラである。撮影は自動航行ソフト(DJI社PC Ground Station, Phantom3のみDJI社GS PRO)を用いて行い,オーバーラップが85%以上,サイドラップが70%以上となるように撮影計画を立てた。GCPはGNSS測量(Trimble GeoExplorer 6000XH)で取得した。Agisoft社PhotoScan Professional Ver.1.2.4を用いて,3次元点群データを作成し,DSM ,オルソモザイク画像を取得した。また,DSMやオルソモザイク画像の処理にはOSGeo財団のQGIS Ver.2.18.10を使用した。
3 結果と考察
2017年の積雪深分布を示した図1中,×印の30地点でGNSS測量を行ない,測深棒で積雪深を観測した。この内11地点は無雪期のDSMに丈の高い草本類や樹木の影響が顕著に見られ,1地点は無雪期の地形が大きな変化をしている可能性が示唆されたため除外し,残りの18地点を分析対象とした。
積雪深は163~308 cm(UAV-SfM),185~285 cm(測深棒)となり,両者の差は-59~+23 cm(誤差の絶対値の平均は28 cm)であった。これらは小花和ほか(2015)の誤差の絶対値の平均の16cmより大きかった。これは,測深地点周辺の植生の影響を除去しきれていないことや無雪期の撮影から期間が経ち,工事などによる人工的な地形変化の影響なども含まれているためと考えられる。
2016年と2017年のUAV-SfMによる積雪深と測深棒による実測値の散布図と回帰直線を示したのが図2である。記録的な寡雪だった2016年と比較し,2002年~2017年の平均より多い積雪のあった2017年は回帰直線の傾きが1に近づき,決定係数も大きくなり,UAV-SfM手法により積雪深がある程度の精度で求められることが示された。
今後は,積雪深推定の更なる精度向上のために無雪期の撮影時期の検討や無雪期と積雪期のDSMのGCPの取得法の改善などを進めていく予定である。
謝辞 本研究の現地調査では,小池崇子氏(首都大学東京 協力研究員)の協力を得た。記して謝意を表する。