抄録
室戸ユネスコ世界ジオパーク(以下、室戸ジオパーク)は、四国東南部の太平洋に突き出す室戸半島の先端に位置し、高知県室戸市の市域に一致する。「海と陸が出会い、新しい大地が誕生する最前線」がテーマで、自然や生活環境に対する海の影響や、海洋プレートと大陸プレートが形成する地学現象などが、ジオパークの主要なトピックとなっている。2008年に室戸市によって室戸ジオパーク推進協議会が設立、同年、室戸ジオパークが日本ジオパークに認定された。2011年には世界ジオパークに認定され、2015年のユネスコ正式プログラム化に伴い、現在は室戸ユネスコ世界ジオパークとして活動している。室戸ジオパーク推進協議会では、常時3名の専門員(地理学、地質学、国際交流)を雇用している。 室戸ジオパークでの専門員の職務は、自然・文化遺産(ジオパーク遺産)の保護・活用、普及と教育、地域住民との連携・協働、拠点施設の管理・運営(展示)、日本および世界ジオパークネットワークへの貢献、調査・研究のコーディネートと実施、ジオパークネットワーク加盟再認定審査への対応、と多岐にわたる。教育活動には、地域の学校教育への貢献(出前授業やフィールドワーク)、ジオガイド養成講座の実施、市民対象の社会教育、学会や大学の巡検への対応が含まれる。 専門員の任務は、ジオパークそのものの価値を高めることでもある。地域遺産(サイト)の開拓および知見拡大のため、現地調査の実施および研究成果の集約をつねにおこなう必要がある。特に、室戸ジオパークでは2015年の世界ジオパークネットワーク再認定審査の際にサイトの新設・整理を行うよう勧告を受けたことで、サイト調査必要性が高まっている。室戸ジオパークには、海成段丘や海岸地形をテーマとしたサイト、まちなみや港湾、地域産業、伝統文化にかかわるサイトが多数存在し、これらに関する研究・教育活動は、地理専門員が受けもっている。 ジオパークでは、その地域に展開する様々な地学現象、生態系、文化、歴史を、有機的なつながりにおいてとらえる必要がある(ジオストーリーの構築)。専門員には次の資質が期待される:(1)地質、地形、文化、歴史の知識、(2)フィールドワークの能力、(3)情報収集と分析、(4)情報発信(広報、プレゼンテーション、執筆活動)、(5)コミュニケーション(外国語を含む)、(6)教育とアウトリーチ、(7)企画力。一人の専門員が全てを担う必要はないが、自然・人文にまたがる地理学のひろい知識と調査研究経験があり(地図の作成やGISによるデータ分析を含む)、論文執筆・プレゼンテーション能力があれば、かなりの範囲をカバーできる。 ジオパークの地理専門員は、知識と研究能力にもとづいて地域の実態を分析した上で、現実の地域づくりへの貢献が求められる。従来ジオパークというと、地質学者と行政職員がジオパークを立ち上げ、運営する(もりあげる)イメージがあった。しかし、実際の地域作りには地域住民の主体的な取り組みが不可欠であり、そのような空気を醸成し地域住民と協働するのが専門員の役割である。ジオパーク専門員には、研究者以上の広い視野が求められる。