日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 304
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発表要旨
多目的地籍とLADMの比較検討およびその応用についての考察
*堀江 瑶子海津 優
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キーワード: 地籍, LADM, 土地管理, GIS
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抄録
Ⅰ 研究の目的と背景
  わが国における地籍調査は昭和26年より開始され、平成28年度末現在、その進捗率は全国で約52%である。地籍調査成果の利活用については、所謂「多目的地籍」として国土交通省を主体に様々な提案が行われており、地籍情報を用いた都市計画やインフラ整備、災害復旧事業等の円滑化等がその応用事例として挙げられている。一方、市町村における地籍調査成果の活用は、主に土地固定資産課税業務が中心であり、その他行政業務への地籍調査成果の利活用は、一部市町村での事例蓄積に留まっているのが現状である。また地籍に含まれる情報に着目すると、わが国では土地の所在、面積、地目、所有者等に限定されており、その他の土地に係る情報は各所管課の個別管理に委ねられ、庁内における一元的な管理や地籍調査成果と連動した統括的な運用は困難な状況となっている。地籍調査成果の土地基礎情報としての公平性および正確性を鑑みると、地籍の市町村行政における活用については、検討の余地が多分に存在する状況が指摘できる。他方、市町村の現況に着目すると人口減少および少子高齢化、それに伴う税収減少は全国普遍的な課題として看取することが可能であり、各市町村において効率的な都市運営を目的とした施策の推進が求められている。そこで、以上の課題背景に基づき、本研究の目的を市町村の自治体経営の効率化およびその施策検討時における多目的地籍の応用事例の考究と定めた。
Ⅱ 研究手法
  国内地籍の多目的化およびその応用事例を検討するにあたり、第一にわが国の地籍とISO19152:LADM(Land Administration Domain Model)の比較検討を実施した。LADMは地籍の多目的化利用を見据えた土地関連データの一元管理を可能とし、国内地籍に比べ非常に高い汎用性を保持する。LADMは地籍およびその関連情報の集約と相互関連構築に特化しており、実際の施策検討等を行うための観点は十分に保持しない。都市計画策定の実務を鑑みると、既存のLADMには含まれない、市場動向に関する各要素(人口変動および地価情報)についても考慮を要すると判断した。そこで、都市運営施策検討への応用を目的に、国内地籍をLADMに基づいた新たな土地管理モデルとして再編し、同時にその具体的なデータモデルを構築した。第二に構築モデルに基づいて、人口減少下における自治体運営の効率化検討を目的としたGIS分析を実施し、その妥当性の検証を行った。検証の結果、設定応用課題に対する対象地域の現況および経年変化が可視化され、空間的把握に基づく都市計画の方針検討が可能となった。本検証より、構築モデルの設定事例における有効性が確保されたと同時に、データモデル運用のための有効なアプリケーションツールの構築の実現性を獲得したとの解釈が可能である。
Ⅲ おわりに
 市町村における多目的地籍の活用の潜在性は極めて高い。
地籍を核としたうえで、その他土地情報を全庁横断的に統括し、それらをGISにて活用することで、あらゆる市町村行政業務の円滑化および合理化が達成される。ISO19152: LADMの将来的な国内標準化の可能性や情報処理、通信技術の飛躍的な進歩を踏まえ、市町村における多目的地籍活用事例の拡充および全庁型GISの更なる浸透に向けて、考究を深める所存である。
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© 2017 公益社団法人 日本地理学会
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