日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 623
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発表要旨
山形大学の小学校教員養成課程における防災教育
*村山 良之八木 浩司
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抄録
山形大学地域教育文化学部では,2015年度から児童教育コース(小学校教員養成課程)において,「教員になるための学校防災の基礎」(2単位)を開講している。本稿は,試行期間ともいえる選択科目としての開講2年間および必修科目として本格開講した2017年度の成果と課題について,検討するものである。
 「教員になるための学校防災の基礎」開講2年の成果と課題
 この授業科目の特徴は,①地球科学的内容を授業時数の約半分を割いて前半に8コマ,後半に防災教育と防災管理の実際的内容を6コマ置いていること,②大学教員3名(発表者+地質学者の川邉)に加えて,現職校長と山形地方気象台の予報官らが授業を担当していることである(村山ほか,2015;村山・八木,2016)。  2015~16年度については,学部実施の授業改善アンケート,最終回授業時のコメントから,以下のことが明らかになった。
①授業全体としては,かなり肯定的な評価を得た。②前半(地球科学的内容)については,肯定的に言及したもの(必要性や有効性等)もあるが否定的に言及したもの(難しい)が多く,同じ受講生が両方指摘したもの(難しいが必要である等)も多い。③外部講師への高い評価や,授業方法の改善への要望も得られた。
2年目は,前年度の反省を踏まえて,第1回目の授業で,前半に地球科学的内容を学習する意義をていねいに説明し,また内容が難しくならないよう配慮されたものであることを伝えて受講生を激励した。さらに後半の最初となる第10回の授業では,ハザードと土地条件に関する情報把握方法について,前年度以上にていねいに説明した。2年目受講生のアンケートやコメントによれば,上記のとおり前半に対する指摘等はあるにせよ,1年目よりも改善したと解釈できた。(村山・八木,2016;村山・八木,2017)
  本格開講初年度に明らかになった課題
2017年度は,児童教育コース(定員80名)の必修となったため,他コースで選択した者を含めて,89名の受講(登録)数となり,昨年までの約2倍となった。2年の経験を踏まえて,とくに前半について,さらに分かりやすい授業を目指すとともに難易度はおおむねこのくらいでよいであろうこと等を,担当者間で確認した。さらに,上記のとおり第1回目と第10回目の取組も継続した。
前年度までは,毎授業ごとの小レポートとくに最終回の授業終了時の小レポートによって学生による評価を確認したが,これらは記名のものであり,限界は明らかである。また学部実施の授業改善アンケートは無記名だが質問項目を自由に設定できない。そこで,最終回7/24の授業の最後に無記名の授業評価シートを用いて受講生による評価を得ることとした。以下の表はその結果である。
前半の地球科学的内容については,(やや)難しいとの反応が2/3あり,同内容が多過ぎるとした者も3割を越える(表略)。(少し)有益とした者も2/3あるが,十分とはいえない。一方,後半の学校防災に直接関わる内容については,(少し)有益とした者が約9割で,難易度についても問題が少ないと考えられる。昨年度まで多かった同内容が足りないとの指摘は1割強にとどまった(表略)。
表中のレポートとは,ある学校(学区)を選んでそこで想定すべきハザードや土地条件についてまとめることを求めたものである。前半と後半をつなぐことを意図した重要なものであり,第10回の授業時に解説した上で課した。前年度までの反省を踏まえてかなり丁寧に説明したつもりだったが,不十分だった。自由記述でも,前半と後半の繋がりがわかりにくいと指摘した者があった。
必修科目となったために,モチベーションの高くない学生やそもそも受けたくない学生も受講した。少数だが,東日本大震災の被災者に対する配慮が足りないと厳しく指摘したものもあった。
授業全体が(少し)有益とする者が3/4あるが,「有益」よりも「少し有益」とする者の方が多く,全体評価はけして高くないと考えられる。次年度は,本授業科目の改善に加えて,教員養成課程以外への防災必修科目も始まる。さらに工夫,改善を重ねていきたい。
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© 2017 公益社団法人 日本地理学会
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