抄録
はじめに
電力利用では供給=需要の関係を満足するように需要と供給がバランスしていなければならない。使用するエネルギーが間断性を示すかどうかによって、即ち、その電力出力を人為的に制御できるかどうかという基準で発電方式を区分することができる。制御可能な方式を非変動(dispatchable)発電、制御不可能な方式を変動(non-dispatchable)発電に区分する。非変動発電には、各種火力発電、水力発電、バイオマス発電などが、変動発電には風力発電、太陽光発電などが属している。変動方式を利用する場合には、その変動を補正する必要があるために非変動方式による電源のバックアップが不可避となる。
ここでは、風力発電のごく短期の変動が引き起こした南オーストリア州(SS)の全州停電、および、風力発電における長期間-1 週間程度-に亘る極端な低出力期の影響についてドイツのシミュレーションを検討する。
1.SSにおけるBlackout の発生原因は風力発電所の出力の急減(停止)
2016年 9 月 28 日にSSで全州の停電が発生し、約 85 万の顧客が電力の供給を絶たれた。当日は発達した低気圧の通過により、竜巻や突風、落雷が発生し、送電線、風力発電所に障害が発生した。それにも拘わらず、同日16h 18m 15s 過ぎに2 箇所の風力発電所が出力を停止するまでは周波数の変動は限界値内であり、電力システムは稼働していた。しかし、それ以後は急速に周波数が低下し、隣接するビクトリア州とを繋ぐ送電線の安全装置が働き、遮断された。その結果、大量の供給不足が発生し、すべての電源を失うblackout が発生した (AEMO 2017)。AEMO は 2 箇所の風力発電所の出力停止前の状態に、最後の風力発電所の停止の有無という条件を付した 2 種類のシミュレーションを実施し、風力発電所の停止がなければ、blackout が発生しないことを確認した (AEMO 2017)。
2.再生可能エネルギー発電で電力の100%を賄うというドイツのシミュレーション例
ドイツでは2007年12 月 12 日~24 日にかけて風力発電の低出力が続いた。ドイツとデンマークとを合わせた、この間の風力発電の1日あたりの出力は12月の1日あたりの平均出力の22% に過ぎなかった。このような事態に備えるためにバックアップ用の電力供給装置を揃える必要がある。シミュレーションでは、天候条件として2006年~2009年の実際の天候条件を用いて行われた。バックアップ用の主要な発電装置( CCGT)の(年間)平均設備利用率が11%~17%、4 年間の平均で14% と極めて低くなった(Klaus et al. 2010)。バックアップ用発電施設を揃えることは発電施設の重複であり、社会的にその費用を負担しなければならなくなる。